１２０話 ページ45
春高出場の為に上京した稲荷崎の面々はホテルに到着すると部屋に荷物を置いてすぐ、借りた体育館での練習前に部員達は集められた。
ＩＨ３位だった稲荷崎はシード校として２日目が初戦となり、興奮を落ち着かせるだけの時間が取れるのは幸いだった。
「あっ。監督、コレお願いします」
「……ホンマにええんか？」
「はい」
「ふぅ……ほんなら、遠慮なく」
練習着に着替えた後ロビーに集合するようにと大見の言葉で軽いミーティングが終わり、小走りで駆け寄って来た神無月の差し出した封筒を、黒須は仕方なさそうに受け取った。
「監督ー、ソレは？」
「正月に“アレ”か来た思たら今までの分やとか訳分からん理屈で渡されたお年玉です。宿泊費に足してくれてええんやで、言うたんですけど断られたんで優勝したらコレで飯行きませんか」
「…………」
「…………」
「…………」
久しぶりに見た神無月の、仮面を貼りつけたような顔と発言に数人が言葉を失った。一足先になんとか復活した主将が額に手を当てながら声を出す。
「…………神無月さん…」
「はい」
「同じブロックに井闥山おるん、分かっとって言っとりますか？」
「？はい。順調に勝ち進んだら準決、ですよね」
なんでもない事のように首を傾げた神無月に、深くため息をついた。
開会式すらまだの今日、確実に立ちはだかると分かっている壁は“王者”井闥山で、既にＩＨで対戦済みな上に負けていて、優勝する為には……
「ん、分かった、優勝して神無月の奢りで飯行こう飯。どんくらいのレベル行ける？」
「ちょっと高い、食い放題やない焼き肉行けます。あのアホ……金さえ与えといたら子供は育つ思とんちゃうやろなぁ…」
「よっしゃお前等、優勝して焼き肉や」
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作者名：万里 | 作成日時：2021年5月25日 19時
