【HQ!!】俺の味覚は狂っとる３【男主】 (ページ18)

今日:15 hit、昨日:13 hit、合計:42,926 hit

９３話ページ18

「監督。残りの夏休み、まだちょい余裕ありますよね？」

「まぁ、多少はな」

「今のうちに舌を調べてもらお思うんですけど、最悪新学期まで部活休ませてください」

そう言って頭を下げる神無月をぼんやりと眺める黒須には“今のうちに”という言葉が引っ掛かった。ソレは『春高予選の前に』という意味なのか、それとも『父親の罪悪感が残っているうちに』という意味なのか…と考えながら目の前の頭に触れる。

「おん、行ってこい」

「すんません…」

「どんだけしんどいんかは見とったら分かるし、謝らんでええよ」

「……ほんなら、センセーの都合がつき次第行って来ます」

そう言って力を抜くように笑った神無月は新学期に突入して数日後、漸く戻って来た。

「元気しとったか？」

「母さんから話聞いたんか、付き添いに来とった“アレ”と毎晩オハナシアイしたくらい元気です」

「大変やったな」

「あんにゃろ……」

「ハハッ。お帰り、未紀」

「……ただいま……あ、検査の結果なんですけど」

「おん、どうやった？」

「新しく呼んだ何処其処のなんとか先生だとか、どっかから取り寄せた訳分からん機械だとかいろいろ使(つこ)うて調べてもろたんですけど一生治らへんって事だけ分かりました」

さらっと何でもないように告げられた言葉に、逆に部員達に動揺が走った。

「“だけ”？えっ、治療法とか病名とか…」

「だけ、です。病名は……あえて言うなら過敏性、とかですかね？なんかの拍子に頭ぶつけて治る可能性も無くはないけど、治療法は無いです」

「……それ、は……」

「…………」

「そんな顔せんでくださいよ。治らんって事が分かったんや、大収穫やないか」

ケラケラと明るく笑う神無月は普段通りの様子に見えた。『舌が回路なら直列から並列に繋ぎ直すんやけどなー』などと言うので、《神無月の味覚障害は並列か直列か》と議論する部員達を、少し離れた所から見ていた赤木に黒須は小声で話し掛けた。

「路成、未紀をよろしくな」

「ハイ？」

「昨日お母さんが心配して連絡くれたんや。病名も分からん治らん、って分かって荒れとったから、って」

苦笑して告げた黒須の言葉に、神無月へ視線を移す。
改めて観察してみれば直列と並列で意見が割れたらしい角名と言い合いをしながらも笑っている神無月の顔が、いつか見た、仮面を貼り付けた笑顔のように見えた。

ーーーーーーーー

「直列にしたらスルッと通るじゃん」

「やから、並列直列は例えやんか。スルッと通るから並列にして仕切りをつけて」

「無駄に頭いい奴の無駄な議論」