そんな都合のいい話は嫌いだけれど2

第74話　届け ページ30

兵助side

久「あ、勘右衛門。」

男湯といかつい文字で書かれたのれんをくぐり、廊下を歩いてたら
前方から勘右衛門が勢いよく走ってきた
どうしたんだろう

久「どうしたんだ勘右衛門…って顔赤くないか？」

勘右衛門はどうしたってぐらい顔が赤かった
俺に気がついた勘右衛門は必死に取り繕うように

尾「え？俺そんなに顔赤い？」

こんな勘右衛門久しぶりに見た
余裕が全く無い

尾「それじゃあっ！」

久「えっちょっ」

俺が声を掛ける前に勘右衛門はどこかへ行ってしまった
勘右衛門は何に焦ってるんだろう
俺は頭の中ではてなを飛ばしながら自分の部屋番号まで足を運んだ

久「Aー。開けてくれないか？」
呼んでも返事が来ない
まさか勘右衛門はAになにかして、追い打ち食らってあんなになったとか
勘右衛門…後でみっちり叱ってやる

「はーい」

ヘラヘラな声で出たのはAだった。いつもと様子が違う
やっぱりな 酒入りのチョコを食べたからとか其処らへんだろう

「入って入って〜」

俺はこんなAの姿見たくない
部屋に入るなり、彼女は誘ってきた

そうはいかない

久「とりあえずA、頭冷やそっか」

俺は冷蔵庫にある氷と洗面所の水道水を袋に入れ、口を縛った

久「横になって」

彼女はやだやだと駄々をこねる
そんなAもかわいいが、今は理性を保つべきだ
彼女をなんとか説得し、俺の膝の上に頭を乗せた

Aの額に袋を置き、はだけた浴衣を直す

「へーすけ、好き」

久「っ！……」

多分これは本心じゃない本心じゃない本心じゃない…
それでも顔を赤くして照れるのは当たり前だろう

「好き好き好き好き好き好き好き好き好き」

久「や、やめろ…照れるだろ…」

彼女は悪戯な笑みを浮かべて好きを連発した

こいつ、照れるって知ってて言ってるな…
俺も追い打ちかけてやる

久「俺もAのこと、だーいすき」

なんだコレ、めっちゃ恥ずかしい
今更だけど顔が赤くなった

反応が来ないな…
そう思ってAの顔に視線を移した

「スー…スー…」

きれいな顔で眠っていた
前髪であまり見えないが、きっととってもきれいなんだろう
俺はAの前髪を分けた

そこには誰もにたことがないような

久「きれい…」

まつげが流れるように生えている
整った眉毛に、白い肌

久「ねえ。好きだよ」

こんな声などAに届くはずない

それでもいいから

届いて

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