タイトル未定 (ページ1)

今日:3 hit、昨日:1 hit、合計:8,771 hit

タイトル未定ページ1

赤 side

別に、一人が好きなわけやない。

『愛はノスタルジー』

恋愛ソングが好きなわけでもない。

『今も聞こえるエレジー』

かといって仲間がいるわけでも、ない。

『あの娘恋しい～』

だからステージには一人で立つ。

そしてバラードばかり歌ってしまう。

『黄昏のラブストーリー』

実力はあると思う。

最近フェイクも上手くなったってよく言われるし。

緊張するのは変わらへんけど、慣れてきた。

なのに、

「やっぱ上手いねぇ。こんなとこじゃなくて、もっと大きいステージで歌うすばるが想像出来るよ」

「誉めすぎやわ」

盛大な拍手を貰っても、ここのオーナーに誉められても、心が満たされへんのはなんでやろう？

「謙遜し過ぎじゃない？

俺なら自慢しちゃう」

「ほんならニノは横柄なんちゃう？」

「あら、失敬なこと」

クスリと笑って思ってもないこと言う。

この人はそんな人だ。

「声、掛ければいいじゃん」

「は？」

「ボーカル探してる連中なんて沢山いるし、お前の実力なら直ぐ仲間に入れてくれる。

バンド組みたいのに組めない連中は腐るほどいるっつってんの」

アンプを弄りながらそんなこと言う彼の瞳に俺は映っていない。

フッと鼻で笑って、俺は少ない荷物を纏めた。

「別に俺、ピンチヒッターになりたいわけちゃうねん。

そんな助っ人みたいなんは御免やで」

鞄を持って使用料だけをアンプの上に置いてスタジオを出る。

小さなライブハウスやけど、俺には充分過ぎる程のスタジオや。

.