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『あ、え?…えぇ!う、うきょっ...!?』
ドームを出たとはいえ、周りにはまだファンが沢山いて、口からこぼれそうになった名前を必死に飲み込んだ。
いや〜電話番号変えてなくてよかった〜、
なんて、驚く私をよそに呑気な声がスマホから聞こえてくる。
『え、な、なんで...』
混乱する頭でかろうじて出てきた言葉はそれだけで、とんでもなく小さい声量だったけれど佑京くんの耳にしっかり届いていた。
「あ〜そうそう」
一つ間を取ると、ニヤニヤした声色に変わり、
「ね、今日見に来てたっしょ」
と言った。
『えっと、ま、まぁはい...』
嘘をつく必要も無いので認めたものの、急になんだか恥ずかしくなり、風船がしぼむように声が小さくなっていった。
「やっぱね!
じゃあさ、まだ遠くまで行ってなかったらもう1回ドーム来れない…?」
『えぇっと...』
「警備員さんには俺の名前言えば入れるように話つけとくからさ!ね?」
捲し立てるように早口で喋る佑京くんに圧倒されて、つい。
『わ、分かった...』
「まじ?!」
驚いたような嬉しそうな声が聞こえてきて、完全に雰囲気に飲まれたな…と思いながら朱里をチラリと見る。
大丈夫?と口パクする朱里に、大丈夫、と口パクで答える。
全然大丈夫じゃないけど。
「んーと、じゃあ10分後ぐらいに。
じゃ、また後で」
一方的に電話を切られ、あっと声を上げる。
[誰からだったの?]
まだ周りに人がいたので、小さな声で、佑京くんと幼馴染という話と、さっきあった電話の内容を話した。
話の途中で、パチンと音がするほどの勢いで口に手を当てていたけど、大丈夫だろうか。
[絶対行きなよ!!]
『でも、朱里とご飯は...』
[そんなの超どうでもいい!Aの恋愛の方が先!]
『うぅ...最高の親友...』
[なんならもう今すぐ行って!!]
『いや、約束は10分後だけどね』
私よりテンションの高い朱里のおかげで、妙に冷静になってしまった。
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作者名:ちゅお子 | 作成日時:2023年7月3日 2時