辰哉君は私の全て (ページ6)

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　"お疲れ様でーす"

　"お疲れー"

桐「あれ、A、帰んないの？」

『うん、明日の資料まだ作り終わってなくって、』

桐「こんなの社内の人間しか見ないんだから、適当でいいのに～」

『出来るだけ見やすい方がいいかなって』

げー、と顔を顰めるこの美人な子は、
滝沢桐(きり)。同じ部署の、同期の女の子。

桐のお兄さんは若くして、この会社の副社長。

だからと言って全く気取るわけでもなく、

気さくで誰にでも優しくて、こんな鈍臭い私の面倒をいつも見てくれる、姉御肌。

桐「女の子なんだから、無理しちゃダメだからね？
適当でいいから。終わらせる事を最重視して？」

『はあーい』

桐「………ホントにわかってんのかしらこの子」

うーん、やっぱ桐も言うように、
完璧を求めすぎない方がいいのかもなぁ…、

でもどうしても毎回、きちんと資料を作ろうとしてしまいがち。

こういうところが要領悪いって言われる所以なんだろうな。

大「桐姫～！
お迎えに来たでやんすよ～！」

桐「さっくんー！今行くー！

じゃ、頑張りすぎずに頑張れ、A」

私の肩をポン、と叩き、

迎えに来た、彼氏である総務部の佐久間大介さんのところへと向かう。

頑張りすぎずに頑張れ、か。

まさにその通り。

頑張り方を間違えてるのは、自分でもよくわかってるのにな。

何故、力の抜き方がこんなにも下手くそなのだろうか。

『………内容さえ伝わればいい。
同じ社員しか見ないんだから、こんなに凝っても意味ないのに』

しばらくぼーっと、あと4割ほど残っている自分の資料を眺める。

ふー、と一息つき、また作業に取り掛かる。

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　"お疲れ様でーす"

『お疲れ様です！』

　"お先に失礼します"

『お、お疲れ様ですっ』

次々と帰宅していく中、

カタカタと私のキーボードを叩く音が部屋に響き渡るようになったかと思えば

『…………はぁぁ、一人か』

いつのまにか取り残されたように、オフィスには私しか残っていなかった。

残業代泥棒にならないように、タイムカードだけ切っておこう。

お腹空いたし、コンビニでも行ってこようかな。

そう思って、デスクを離れようとした瞬間。

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