バラード第1番 lll

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篤「あれ、」

「…え？」

篤「こすんない方がいいらしいよ、」

「？」

篤「こするから腫れんだって、」

「………」

篤「ほっぺぐらいまで流れてきたら拭く、」

「………」

篤「これ豆知識ね、」



カードを片付けながら一つ一つ呟いた彼は、顔を上げると、私の瞼をツーっとなぞる、



篤「腫れたら冷やす、」

「………」

篤「缶コーヒーじゃなくて、氷がベスト、笑」



そのまま掌を私の頭に乗せると、"DVDはまた今度ね"と優しい笑顔を私に向けた、



彼には、

空港でスーツケースを引いたあの瞬間から、全て見透かされていたんだろう、



それでも涙の理由は聞かない人だ、

私の好きになった人は、



篤「だからこすんなって、笑」



溢れ出そうなそれに無意識に指を目元にやると、私のそれは彼の手に捕まる、



一度流れ出てしまえば、堪えるのは難しくて、

次々と頬に流れるそれを、"さすがに夜に泣いたらこすんなくても腫れるわ"と笑いながら彼が拭う、



篤「…あれ、遠回しな言い方みつかんなかったら、ストレートでもいいよ、」

「………」

篤「俺こう見えて強心臓だからね、笑」

「………」

篤「でも言ったっしょ？
そういう顔されんのは無理なわけ、俺は、」



溢れ出る感情で彼の顔は見えなくて、優しい声だけが鼓膜を震わせる、



「……私は、」



ー貴方が好きですー



ーーーVergangen…



＜A、大人になったら僕と結婚して？＞

＜え？＞

＜いいでしょ？＞

＜うん。＞

＜じゃあ誓いのキス。＞

＜…？＞

＜しなきゃいけないんだって。お母さんが言ってた。＞

＜そうなんだ。わかった。＞



ーーー



「………私は…」



ーずっと貴方の傍にいたいー



ーーーVergangen…



＜俺たちはずっと一緒にいると思うんだよね。＞

＜うん。＞

＜それで、ずっと一緒に音楽やってる。＞

＜うん。私もそう思う。＞



ーーー



「………」



ー貴方に傍にいてほしいー



ーーーVergangen…



＜この指輪可愛い。＞

＜本当だ。＞

＜買おうかな。＞

＜駄目。Aが指輪する時は、俺がプロポーズした時って決まってるの。＞

＜え？笑＞

＜嫌だ？＞

＜…ううん。＞



ーーー



篤「…ふっ、次来れんの木曜だけど、」

「………」

篤「スーパー行く？行かない？」

「…行きます、」

篤「…了解」



それだけ答えられる私は、ズルい、



貴方にそんな顔をしてほしいわけじゃないのに、

させているのは、紛れもなく私、

臆病な私、

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