38 ページ38
「………っ」
この曲を弾いて無心になれなくなったのは、
弾き慣れてしまったせいか、
彼と出会ってしまったせいか、
いつからか弾き終えた後に残る答えは、
"彼が好きだということ"
ただそれだけ。
この街を発つ前に、全てを終わらせるつもりだった。
彼と出会う前の私に戻って、
愛すべき人と生きていくために、
でも、彼の最後の声が途絶えた時、
虚しい機械音が響いた時、
私は確信してしまったんだ、
彼への想いを、消すことなどできないと、
相「A、」
「……なんで…?」
ただ弾き終えた掌を呆然と眺めていた時、良く聴き慣れた声がしてハッと我に返る。
その方へ振り向けば、ソファにはこちらをじっと見つめる幼馴染の姿があった。
相「鍵開いてたよ。」
「………」
相「駄目だよ、ちゃんと閉めなきゃ。」
「………うん、」
相「昔からAは鍵かけない癖があるからね、笑」
ーーーletzt…
<インターホン3回くらい鳴らしたんだけど、>
<てか、鍵開けっぱとか不用心すぎ。>
ーーー
ーーーletzt…
<また鍵かけてなかったっしょ?>
<まじで知らないからね、俺じゃねーやつが突然入ってきても、>
ーーー
「……ごめん、」
相「謝らなくてもいいけど、」
「…ごめんなさい、」
無意識に浮かんでくる"最近過ぎ去った過去たち"、
ただ必死に掻き消すように声を絞り出せば、"いいよ"と柔らかい声が哀しみと一緒に部屋中に響いた。
相「…随分上手くなったね、マゼッパ。」
「……そうかな?」
相「プロでも中々いないよ、そこまでミスタッチなしに弾ける人。」
俯いていた顔に無理矢理笑みを浮かべ彼の方を見れば、視線が絡み合った後、彼が浮かべたそれもまた無理矢理なもので、
相「どのくらい練習したの?」
「…どのくらいだろう…分からない、」
相「……ひょっとして、ここ一ヶ月くらいずっと弾いてたんじゃない?」
「…え?」
私を真っ直ぐに見据えたままそう問う彼は、数秒の沈黙の後、"ふっ"と伏し目がちに小さく笑う。
相「…Aは何かに悩んでる時、いつもその曲弾くでしょ、」
「………」
最後の電話が途切れた時、無意識にピアノに向かっていた。
ウィーンを、幼馴染の元を離れる時、
何度も助けられたこの曲を弾くことは、いまの私には自然なことで、
その"癖"に、彼は気づいていたんだ、
286人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「芸能人」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
しおり(プロフ) - はじまして。後半号泣でした。切なくて切なくて、涙が止まんなかったです笑これからも楽しんで読ませて頂きます! (2015年7月18日 0時) (レス) id: e7ee2124ab (このIDを非表示/違反報告)
laiz(プロフ) - ななさん» ありがとうございます!何度もリピートして頂けて嬉しい限りです/ _ ;気持ちを確かめ合った翌日ですらこんな感じの二人ですからね…ゆっくりと距離を縮めていくのではと思っています(^^)ななさんのお言葉にいつも励まされていました!これからもよろしくお願いします! (2013年8月25日 20時) (レス) id: e2e17d63f3 (このIDを非表示/違反報告)
laiz(プロフ) - ママさん» ありがとうございます!早速続編作成させて頂きました(*^^*)これまでとは違った二人も、段々見せていければと思っています。これからもよろしくお願いします(^^) (2013年8月25日 20時) (レス) id: e2e17d63f3 (このIDを非表示/違反報告)
laiz(プロフ) - 葛葉さん» こんばんは!急に甘々はこの二人では想像出来ませんでした(^^)ほんわかして頂けて良かったです(*^^*)続編作成致しましたので、そちらでもまたよろしくお願いします! (2013年8月25日 20時) (レス) id: e2e17d63f3 (このIDを非表示/違反報告)
laiz(プロフ) - なつみさん» こんばんは!続編、作成致しました(*^^*)タイトルは作中でも何度も出てきたマラ5です(^^)ありがちですね…笑"続編もよろしくお願いします! (2013年8月25日 20時) (レス) id: e2e17d63f3 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:laiz | 作成日時:2013年7月25日 19時