バラード第1番 lll

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「……私はこれから、ウィーンに行ってきます。」

篤「そう。」

「音大時代に住んでた場所なんです。」

篤「へー。」

「内田さんは行ったことありますか？」

篤「ないな、俺は。」





気のない返事ばかりが返ってきて、

でもそれは、私が自分の口からちゃんと言えるようにしてくれている、彼の優しさだ。





「………」

篤「…で、次は？」





ボソっと発せられた冷たく感じられる言葉も、本当は優しさで包まれていて、





「………」





"ずっとドイツにいるつもりか？"

"ウィーンに戻ってくれた方が私たちも安心なのよ？"





「………最近調子が悪かったんです。」

篤「うん。」





"Aちゃんがついててくれれば安心なんだけど"

"私は嫌だな、Aが違う人となんて"





「……ちゃんと集中して練習しなきゃなって、」

篤「うん。」





"私の幸せは両親の笑顔あってこそだって"

"Aちゃんが傍にいて支えになってくれたらなって、そう思っちゃう"





「………ごめんなさい、」

篤「…ん？」





"やっぱりAに傍にいてほしい"

"Aの手は、俺にとっての魔法だから"





「……練習、はかどらなくなっちゃいました、」

篤「…そっか、」





"それはまずいね、ちゃんと集中しなきゃ"と力なく笑った彼の声が、私の中に哀しく響き渡って、



言葉にして気づく。

私にたくさんの優しさをくれた彼を、たくさんの愛情をくれた彼を、

傷つけてしまったのは保身に走った私なのだと、



一番、傷ついてほしくない人のはずなのに、





篤「これから出掛けんでしょ？」

「………はい、」

篤「こすんなよ？腫れるから、」





次々に溢れ出る涙に気づいたのは、私よりも彼が先で、

いつだって私に向けられていた彼の優しさを前に、終わらせたはずの想いが溢れ出る、





ーーーletzt…



＜シカト？＞

＜さすがにその状態見て、放置できるほど薄情じゃないわ、俺。＞



ーーー





出会った頃の彼も、





ーーーletzt…



＜俺のお気に入りのバラ1は、篠崎さんが弾くやつってこと。＞



ーーー





私のピアノが好きだと言ってくれた彼も、





ーーーletzt…



＜ちなみに、なんとも思ってない子の家上がりこんだり、自分ん家に上げたりもしない。＞

＜誰にでもこうなわけじゃねーから、俺。＞



ーーー





少し頬を紅らめた彼も、

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