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『ありがとうございました。』
「はい、また来週。」
時刻は19時、
受け持つ生徒さんのレッスンを全て終え、レッスン室の鍵を返すため事務所の扉を開く。
『お疲れさま。』
「お疲れさまです。」
事務所に入れば、ディスクでPCと向き合う学長の姿があった。
『篠崎さん、あの件考えてくれた?』
いつもの明るい笑顔でそう問う学長から少し目線をずらすと、PC画面には、"オープンスクール進行表"の文字が映し出されている。
「………その件なんですが…」
『ん?』
「……あの…」
吃る私に、不思議そうな顔を向ける。
"ウィーンに行くことは言った?"
昨日の彼の言葉が、そっと私の背中を後押ししようとした時、
コンコンと扉がノックされる音が、私の動きを止めた。
『学長、お客様です。』
『いま行くわ。』
"篠崎さん、その話はまた今度"と事務所から足早に出て行く学長の背中を見送りながら、色んな感情が私を襲う。
何故言えなかったのか、
もう答えは出たはずなのに、
昨夜の車内での出来事が浮かんでくれば、それを掻き消すように、ギュッと拳を握りしめる。
大丈夫、
次はちゃんと、彼の愛情に応えられる、
そう自分に言い聞かせながら、
相「A!」
教室を出ると、車の前に立つ彼が、こっちに向かってヒラヒラと手を振っている。
ドクンと重く跳ねた鼓動を抑えるように一つ深呼吸をして、柔らかい笑顔の方へと進んでいく。
相「俺もいま練習終わってホテルに戻るところなんだ。調度いいかと思って待ってた。」
「そうなんだ。ありがとう。」
昨日同様、"どうぞ"と助手席のドアを開ける。
優しく頬笑む彼に、私も同じようにそれを一つ返して、助手席に乗り込んだ。
相「結構大きな教室なんだね。」
「うん。」
相「何でここにしたの?」
「私夜は出れないから。
沢山先生がいた方が、シフト融通効くかなと思って。」
左側の鼓膜を震わせるのは、今日も幼馴染のたわいのない会話。
流れる景色を車窓から眺めながら、自分ではあまり聴くことのないJ-POPたちが、頭の中で蘇る。
相「明日、お昼の飛行機なんだけど大丈夫?」
「…うん。」
その瞬間、私の中で流れていた音楽はプツンと鳴り止み、幼馴染への返事を絞り出す。
相「…本当に大丈夫?辛くない?」
「…え?」
ボソっと聴こえた言葉に思わず彼を見ると、
真っ直ぐに前を見るその瞳には、哀しさが滲んでいた、
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しおり(プロフ) - はじまして。後半号泣でした。切なくて切なくて、涙が止まんなかったです笑これからも楽しんで読ませて頂きます! (2015年7月18日 0時) (レス) id: e7ee2124ab (このIDを非表示/違反報告)
laiz(プロフ) - ななさん» ありがとうございます!何度もリピートして頂けて嬉しい限りです/ _ ;気持ちを確かめ合った翌日ですらこんな感じの二人ですからね…ゆっくりと距離を縮めていくのではと思っています(^^)ななさんのお言葉にいつも励まされていました!これからもよろしくお願いします! (2013年8月25日 20時) (レス) id: e2e17d63f3 (このIDを非表示/違反報告)
laiz(プロフ) - ママさん» ありがとうございます!早速続編作成させて頂きました(*^^*)これまでとは違った二人も、段々見せていければと思っています。これからもよろしくお願いします(^^) (2013年8月25日 20時) (レス) id: e2e17d63f3 (このIDを非表示/違反報告)
laiz(プロフ) - 葛葉さん» こんばんは!急に甘々はこの二人では想像出来ませんでした(^^)ほんわかして頂けて良かったです(*^^*)続編作成致しましたので、そちらでもまたよろしくお願いします! (2013年8月25日 20時) (レス) id: e2e17d63f3 (このIDを非表示/違反報告)
laiz(プロフ) - なつみさん» こんばんは!続編、作成致しました(*^^*)タイトルは作中でも何度も出てきたマラ5です(^^)ありがちですね…笑"続編もよろしくお願いします! (2013年8月25日 20時) (レス) id: e2e17d63f3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:laiz | 作成日時:2013年7月25日 19時