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相「明日は一日仕事でしょ?」
「うん。ごめんね、休めなくて、」
ホテルまでの5分間の車内、私の左側の鼓膜を震わせるのは、幼馴染のたわいのない会話。
相「ううん。俺も明日はレッスン室借りたから、一日練習してる。」
「そっか。」
相「夜はAのピアノ聴きに行くから。」
"お酒あんまり飲めないけど、長居しても大丈夫かな?"と笑う彼は、あんまりどころか全く飲めなくて、
「ノンアルコールあるから大丈夫。笑」
私の言葉に、"良かった"と安心したように肩を降ろした。
「それに、支配人に"相馬友樹が来る"って言えば、大歓迎してくれると思うよ。」
相「俺たちのことは知ってるの?」
「うん。」
クラシックが大好きな支配人のことだから、きっと彼が来ることを知ったら目を輝かせるだろう。
相「ウィーンに行くことは言った?」
「…ううん、まだ、」
相「そっか。まぁ、明後日あっちの支配人にピアノ聴いてもらってからでも大丈夫だよね。」
"じゃあ俺はこのまま打ち合わせに行くから"の彼の言葉と同時に車が停まり、"うん"と頷きながらシートベルトを外す。
そのままドアに手をかけようとした時、
左腕を掴まれ、彼の方へ引き寄せられた、
「………」
音楽もなにも流れていない車内には、車のエンジン音だけが響いて、
彼の胸にくっつけられた左耳から、鼓動の音がドクドクと聴こえる。
相「A、」
一度離された身体の距離が、また近づいて、
今度は引き寄せられるのではなく、
ゆっくりと、ゆっくりと、彼の顔が私の視界を埋めていく、
「………」
唇が触れそうなまでに近づいたその時、ギュッと瞼を降ろし、
それと同時に、
気づけば顎を引いていた、
「………ごめん、ちょっとビックリしただけ、」
静けさに包まれる中、彼の顔は見れなくて、
俯いていた私の頭に、ポンっと温かい掌が乗る、
相「…A、本当に大丈夫?」
ゆっくりと彼の方へ顔を上げれば、
優しくて、哀しい笑顔がそこにあった、
「……どうして?…本当にただ、ビックリしただけだよ、」
相「…そっか、」
"ごめん、遅刻しちゃうね"と運転席を降り、助手席のドアを開けた彼、
私の手を引くと、"頑張ってね"と背中を押した。
入口まで進み、彼の方へ振り向けば、
昔から変わらない柔らかい笑顔で手を振っていて、
込み上げてくるのは罪悪感なのか、
それとも決意なのか、
自分でももう分からなくて、
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しおり(プロフ) - はじまして。後半号泣でした。切なくて切なくて、涙が止まんなかったです笑これからも楽しんで読ませて頂きます! (2015年7月18日 0時) (レス) id: e7ee2124ab (このIDを非表示/違反報告)
laiz(プロフ) - ななさん» ありがとうございます!何度もリピートして頂けて嬉しい限りです/ _ ;気持ちを確かめ合った翌日ですらこんな感じの二人ですからね…ゆっくりと距離を縮めていくのではと思っています(^^)ななさんのお言葉にいつも励まされていました!これからもよろしくお願いします! (2013年8月25日 20時) (レス) id: e2e17d63f3 (このIDを非表示/違反報告)
laiz(プロフ) - ママさん» ありがとうございます!早速続編作成させて頂きました(*^^*)これまでとは違った二人も、段々見せていければと思っています。これからもよろしくお願いします(^^) (2013年8月25日 20時) (レス) id: e2e17d63f3 (このIDを非表示/違反報告)
laiz(プロフ) - 葛葉さん» こんばんは!急に甘々はこの二人では想像出来ませんでした(^^)ほんわかして頂けて良かったです(*^^*)続編作成致しましたので、そちらでもまたよろしくお願いします! (2013年8月25日 20時) (レス) id: e2e17d63f3 (このIDを非表示/違反報告)
laiz(プロフ) - なつみさん» こんばんは!続編、作成致しました(*^^*)タイトルは作中でも何度も出てきたマラ5です(^^)ありがちですね…笑"続編もよろしくお願いします! (2013年8月25日 20時) (レス) id: e2e17d63f3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:laiz | 作成日時:2013年7月25日 19時