バラード第1番 lll

18.Atsuto side ページ18

麻「んー…結局、篠崎さんはうっちーに惚れなかったってこと？」

篤「は？」

麻「フラれるってそういうことでしょ、」

篤「…浅はかだな、吉田麻也。俺の話ちゃんと聞いてた？」

麻「？？？」





彼女がボロボロ涙を零したあの日、"私は…"の後に続くはずだった言葉もだいたい分かってる、

たまに頬を紅く染める彼女が、俺の勘違いじゃないなら。



それでも、

"滑稽"なそれを選べない彼女のことも、だいたい分かってる、





麻「好きになってもらえたのに、フラれるってこと？」

篤「フラれるフラれるうるせー。」

麻「いや、だってさ…それでいいの？」





よくねーよ、全然。

でも、勢いとか感情だけで進まない彼女だから、俺は好きになったんだと思うんだよね、



"何もかも捨ててあなたについて行きます"
なんて人は無理だし、俺は、



だから彼女が遠回しな言い方をしてきたら、
俺は多分、周りのことばっか考えてる彼女のことがまた少し好きになって、



とんでもない悪循環ってやつ、





麻「まさか、"彼女が幸せならそれでいい"ってやつ？」

篤「………」

麻「本当にあるんだ、そういうのって。
ドラマの中の話かと思ってた。」

篤「…別に、そんな綺麗なもんじゃねーよ、」





それだったら、俺はとっくに彼女の部屋に行くのをやめてた。

だって俺がいなくなれば全部問題解決でしょ？

彼女を苦しめなくて済んでたわけでしょ？



それがわかってて行き続けてたのは、
"彼女に会いたい"っていう、俺のエゴイズム。



"もういい"って俺が言ってやればいいのに、
そうしないのは、最後の言葉は彼女に言わせたいから、

じゃないといつまでも引きずりそうだから、



結局自分のことしか考えてない。
だから、こんな俺のことは気にしなくていい。



どんな答えを出しても、お互いさま、





麻「あーあ、うっちーがクラシックなんか聴いてるから、相当惚れてるんだろうなと思ってたんだけどな、」





テレビの横にあったCDを手に取り、"なにこれ、交響曲第5番？"とまじまじとそれを見つめる麻也。





篤「やべ、返すの忘れてた、」





"あの曲は、マーラーの生涯で最も幸福な時代に書かれた曲なんです"



出来れば俺がしてやりたかったけど、

ずっと見てたかったけど、彼女の笑う顔、



"私は…"



その言葉の続き聴ければ、
滑稽なことすんのも悪くないとかちょっと思ったけど、





篤「やっぱ矛盾だらけだよね、恋愛って、」

麻「？」

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