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三週連続のもつ鍋を食べ終え、ソファに腰掛け出勤準備を進める。

キッチンから聴こえる水の音を感じれるのも、

これが最後かもしれなくて、



篤「準備出来た?」

「…はい、」



目線を合わさずに玄関に向かった彼は、珍しく"おじゃましました"と呟きながら扉を開けた。



篤「あれ、なんか明るくなってね?」

「ライト替えたみたいですよ。」

篤「絶対苦情来たんでしょ、笑」



明るくなった電気を見上げながら、"じゃあもう大丈夫だ"と笑った彼の声は、

いつもより少し息を含んでいて、

何気ないその言葉が何故か、静かな廊下に哀しく響き渡る、





よく見えるようになった廊下は、今まで気づかなかった小さな傷たちがたくさんついていて、

それを見ながら階段を降りれば、よく見慣れた車が視界に飛び込む。



ホテルまでの五分間の車内、
いつもと変わらない彼の鼻歌、

それでも私の耳は、トーンが少しだけ下がっていることを聴き漏らすことはない、



篤「決めた、」

「え?」

篤「さっきの罰ゲーム。」



ホテルが遠くに見えたその時、彼が突然話し出したのは大富豪の話題、



「なんですか?」

篤「結構キツイよ?」

「はい、」

篤「次ももつ鍋。」

「………」



真っ直ぐに前を向いてそう言う彼に、
返す言葉は見当たらなくて、



ー"次"は来ないかもしれないー

ーきっと、来ることはないー



言いかけたその時、

"ふっ"と小さく笑った彼は、"冗談"とボソっと呟いた。





どんな時より短く感じた5分間、

ホテルの前で車が停まり、ドアロック解除の音が響けば、なんてことない日常が終わりを告げる、



「……ありがとうございました。」

篤「ん、」



ドアを開けると、街の雑踏音が車内に流れ込むのはいつもと同じで、

バタンとそれを閉めれば、車窓がゆっくり下がっていくのも同じ、



ただ一つ違うのは、

いつもはない数秒間の沈黙が、私たちを包んでいること、



篤「…じゃ、」



切り裂いたのは、右手を小さく上げた彼、

ただ黙ってコクンと頷けば、タイヤと地面が擦れる音が響いた。



遠ざかっていくそれはまるで、私たちの距離を物語っているようで、

その姿が消えた瞬間、右頬に冷たいものが一粒伝う、



ーーーletzt…



<こすんない方がいいらしいよ、>

<こするから腫れんだって、>



ーーー



幾つも流れ出る感情を、



ーーーletzt…



<ほっぺぐらいまで流れてきたら拭く、>



ーーー



頬の辺りでそっと拭った、

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しおり(プロフ) - はじまして。後半号泣でした。切なくて切なくて、涙が止まんなかったです笑これからも楽しんで読ませて頂きます! (2015年7月18日 0時) (レス) id: e7ee2124ab (このIDを非表示/違反報告)
laiz(プロフ) - ななさん» ありがとうございます!何度もリピートして頂けて嬉しい限りです/ _ ;気持ちを確かめ合った翌日ですらこんな感じの二人ですからね…ゆっくりと距離を縮めていくのではと思っています(^^)ななさんのお言葉にいつも励まされていました!これからもよろしくお願いします! (2013年8月25日 20時) (レス) id: e2e17d63f3 (このIDを非表示/違反報告)
laiz(プロフ) - ママさん» ありがとうございます!早速続編作成させて頂きました(*^^*)これまでとは違った二人も、段々見せていければと思っています。これからもよろしくお願いします(^^) (2013年8月25日 20時) (レス) id: e2e17d63f3 (このIDを非表示/違反報告)
laiz(プロフ) - 葛葉さん» こんばんは!急に甘々はこの二人では想像出来ませんでした(^^)ほんわかして頂けて良かったです(*^^*)続編作成致しましたので、そちらでもまたよろしくお願いします! (2013年8月25日 20時) (レス) id: e2e17d63f3 (このIDを非表示/違反報告)
laiz(プロフ) - なつみさん» こんばんは!続編、作成致しました(*^^*)タイトルは作中でも何度も出てきたマラ5です(^^)ありがちですね…笑"続編もよろしくお願いします! (2013年8月25日 20時) (レス) id: e2e17d63f3 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:laiz | 作成日時:2013年7月25日 19時

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