バラード第1番 lll

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〜♪〜♪



あまりに長いフライトのお供は、決まっていつもiPod touch。

周りの雑音をシャットダウンしてくれるイヤホンでそれを聴けば、何百人の人が乗っているこの機内もコンサートホールに変わる。



音楽というのは、人類最大の発明だと私は思う。

たった数分間のそれに、風景や、心情、たくさんの思い出たちが刻まれているのは、私だけではないはずだ。



幼い頃に母がよく弾いてくれた"モーツァルト きらきら星変奏曲"

私がチェロではなくピアノを選んだ時に、父が残念そうに奏でた"クライスラー 愛の悲しみ"

高校時代、友人たちと舞台を創り上げた"ビゼー カルメン組曲"



そして、

初めてのコンクールで入賞した"リスト ため息"

やり切れない想いをぶつけた"ショパン バラード第1番"



そのどれもが、いまの私には少し痛い、









ードイツ・デュッセルドルフ空港ー



日本のそれとは少し違う香りを感じれば、まるで第二の故郷に帰ってきたような安心感に包まれる。

この街にやってきてまだ一年半しか経っていないのにそう感じるのは、

過ごした日々が濃かったから、





"こちらは留守番電話サービスセンターです。
ただいま電話に出ることが…"





日本からドイツへ持ち帰ったのは、
行きより少し重さの増したスーツケースと、それ以上に重くなった心、



心なしか瞼まで重く感じるのは、暇を持て余す12時間弱のフライト中、

音楽と共に浮かんでくる言葉たちと、時たま無意識に流れ出るそれを、

誰にも気づかれないように必死で拭い取っていたせいかもしれない、





＜空港着きました。到着ロビーにいます。＞





正直、日本で過ごした一週間のお盆休みは、
日頃の疲れを癒すどころか、私をどっと疲れさせた。

でもそれは、私が悪いのだけど、

全部、私のせい、





＜運転してた。どこら辺？＞

＜出口付近です。＞

＜いま行く。＞





スリープボタンを押せば、真っ黒になったiPhoneの画面に自分が映る。

目元に近づけ瞼に触れれば、確かに少し膨れているような気がするけど、

現代のメイク道具というのは優れたもので、到着寸前の機内で施したそれのおかげで、見た目には全くわからない。





篤「なにしてんの？」



スーツケースのキャスターのカラカラという音の次に聴こえてきたのは、"なんかちょっと怪しいんだけど"と鼻で笑う彼の声、

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