5*まふまふ ページ5
そして間もなく扉が開いた。
顔を出したのは、にこにこと笑ったまふまふくん。
私もつられて笑顔になる。
そして、手に持っていたプリントを差し出すと。
『これ、今日の分のプリントと連絡。届けに来たの』
「うん、ありがとう」
それを受け取るまふまふくんの白い手が、ものすごく細い。
きちんと食べているんだろうか?
「あの…」
すると、まふまふくんはちょっと口ごもった。
首をかしげると、彼は決心したかのように。
「もしよかったら、お茶、…飲んでかない?」
思いもよらない誘い。
けれど、私は好奇心もあったので。
『あ、うん…!』
こくり、小さく頷いた。
――――――
『へぇ〜!じゃあ、枕を変えればいいの?』
「そうそう、枕でずいぶん睡眠状況って変わるみたいだよ」
豪華なソファにすわり、手を伸ばして紅茶をひとくち飲む。
あ、美味しい。
まふまふくんの家は、外見に見合う豪華さで。
目の前には、楽しそうに話すまふまふくん。
今は、悩み事の“眠い”ということについて話しているところだ。
少し話せば分かる、彼は頭がいい。
物知りで、話す順序もすごく分かりやすくて。
そして、彼はお父さんと暮らしているらしい。
けれど、仕事で海外を飛びまわっているのでほぼ一人暮らし状態なのだそうだ。
すると、まふまふくんが時計を気にして。
「―――…あ、そろそろ帰らないと。ご両親、心配しない?」
両親、という言葉に、顔が固まった。
しかし、すぐにいつもの表情に戻す。
その異変に、どうやらまふまふくんは気づいてしまったようで。
「…どうしたの?結構まずい?」
そんな問いに、ふるふると首を振って私は答えた。
『えっと…両親、いないんだよねー…今は一人暮らししてるから、さ』
高校2年生でこの境遇、少々珍しいかもしれない。
でも、それはあくまで少々であって、この広い世界にはそんな人が何千人いるか分からない。
それでも、まふまふくんは顔をゆがめた。
「ごめん…言わなきゃ良かった」
『ううん、大丈夫。むしろすごい楽しかった、ありがとう。紅茶、ご馳走様でした』
そろそろ帰るね、と。
鞄を持って立ち上がったタイミングで、まふまふくんが口を開く。
「―…俺も、楽しかった。
…また、明日!」
その言葉に、笑顔が漏れる。
こうやって普通に声をかけてくれることが一番嬉しい。
玄関で手を振るまふまふくんに手を振りかえし、私は帰路についた。
―――…悪いうわさなんて、全く忘れていた。
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私の前で語尾に矢印をつけないでください - 完成度高過ぎて🤦🤦 (2023年1月16日 23時) (レス) @page50 id: 28b1a8c3b0 (このIDを非表示/違反報告)
meal - なんだか深い小説でした 作者様のあとがきに色々と考えさせられました (2017年8月29日 19時) (レス) id: 94e05bb702 (このIDを非表示/違反報告)
みみね - カッコいい小説でした。 (2017年5月12日 20時) (レス) id: 4825a094c8 (このIDを非表示/違反報告)
さやえんどう(プロフ) - ナノハナさん» 久しぶりに見たらコメントが来ていたので驚きました。ありがとうございます!とっても嬉しいです! (2016年10月12日 17時) (レス) id: b6c08d2ce6 (このIDを非表示/違反報告)
ナノハナ - こんにちは、この小説を読みました。どのお話もすごく良かったです。特に狂愛のお話はあまりにも切なくて泣いてしまいました。 (2016年10月8日 13時) (レス) id: edb9894186 (このIDを非表示/違反報告)
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