4*まふまふ ページ4
「お疲れ様でした」
委員長の声で、放課後の保健委員会は終わった。
時計を見ると午後5時。
いつもに比べれば、早く終わったほうである。
私は荷物をまとめ、靴箱へ向かう。
―――――――……と。
「おっ!A、いいところに!」
『…あ、先生』
私に声をかけたのは、担任の先生だった。
気さくな先生は生徒にも人気である。
すると、先生は私の目の前でパンッと両手を合わせ、深く頭を下げて。
「なぁっ、頼む!一生のお願いだ、A!」
『あ、あのあの…!分かりました、分かりましたから!頭上げてくださいぃいいい!』
放課後とはいえ、廊下の人通りが全く無いわけがない。
注目の的となるのが恥ずかしく、急いで先生の頭を上げさせる。
先生は困りきった顔で。
「俺、今日出張なんだよなぁ。頼む!まふまふの家に、連絡とか配布物とか、届けてくれないか?」
――――…まふまふ。
それは、紛れもなく昼間早退した彼のことで。
『かまいませんよ?』
「本当か!?」
心底嬉しそうな先生に笑いが漏れる。
幸いまふまふくんの家は知っているし(近所でも有名な豪邸だ)、彼のことが気になり始めているということもあった、正直。
そんな邪な、不純な動機で行くのはどうかとも一瞬思ったが、頼まれたのである。
そう思って私は自分を納得させ、プリント類をうけとった。
「じゃあ、頼むな!気をつけて帰るんだぞ!」
『はーい。さよなら』
先生の元気な声を背中に聞きながら、私は高校を出た。
胸に抱えているのはプリント。
―――――……なんだか緊張、けれどわくわくの方が大きい。
そんな私の頭からは、昼間聞いた「危ないらしい」という噂のことなんて微塵もなかった。
十数分歩き、その大豪邸につく。
白塗りの壁、綺麗に手入れされた庭。
そんなひとつひとつに感嘆しつつ、私はインターホンを押す。
―――…ピーンポーン…
不気味に思えるほど澄んでいて綺麗な音が鳴る。
それと共に聞こえた、声。
「―――…A、さん?」
しかし、それはインターホンからの声ではない。
…上?
ふっと上をみると、二階の窓から顔を出したまふまふくんがいた。
『あっ、プリント届けに―…』
「今日は先生じゃないんだね。いいよ、入って」
私が言いかけた言葉をさえぎって、まふまふくんは笑った。
まふまふくんの顔が消えたと思うと、ガチャリ、扉の鍵が開く音がした。
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私の前で語尾に矢印をつけないでください - 完成度高過ぎて🤦🤦 (2023年1月16日 23時) (レス) @page50 id: 28b1a8c3b0 (このIDを非表示/違反報告)
meal - なんだか深い小説でした 作者様のあとがきに色々と考えさせられました (2017年8月29日 19時) (レス) id: 94e05bb702 (このIDを非表示/違反報告)
みみね - カッコいい小説でした。 (2017年5月12日 20時) (レス) id: 4825a094c8 (このIDを非表示/違反報告)
さやえんどう(プロフ) - ナノハナさん» 久しぶりに見たらコメントが来ていたので驚きました。ありがとうございます!とっても嬉しいです! (2016年10月12日 17時) (レス) id: b6c08d2ce6 (このIDを非表示/違反報告)
ナノハナ - こんにちは、この小説を読みました。どのお話もすごく良かったです。特に狂愛のお話はあまりにも切なくて泣いてしまいました。 (2016年10月8日 13時) (レス) id: edb9894186 (このIDを非表示/違反報告)
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