12*まふまふ ページ12
「A…?」
目を覚ますと、心配そうな顔をしたまふまふくんが目の前にいた。
思わず、喉が、ヒッと音をたてる。
それに、まふくんは眉をハの字にして。
「ごめんねA、ごめん…ごめんね」
そう言って、私の横に縋り付いた。
私は、じくり、胸の奥が疼いたのがわかった。
『あ、あの…まふまふ、くん』
「まふくんって呼んで、…お願い…ッ」
最後だけ濡れたような声色。
私はためらいながらも、“まふくん”と小さく口に出す。
まふくんは、嬉しそうに顔を上げた。
そして、ベッドの横の小机においてあったスープを差し出す。
「…食べる?」
『……、』
「あ、警戒してる。大丈夫だよ、俺はAが起きててくれたほうがいいもん。変な薬とか全く入ってないからさ」
『…ありが、とう』
――――…いつもの、まふくん、だった。
優しくて、笑顔が綺麗で、それで――…
「トマトスープにしたからね、元気出るよ」
私のことを、いちばんに考えてくれる。
私がベッドから起き上がろうと身を捩る。
―――…ジャラリ。
耳障りな音が、聞こえた。
ハッと身を強張らせる。
まふくんは、それに気づいたとたん、
…すぅっと、恐ろしいほどの無表情になった。
「慣れて」
『え…?』
思いもよらない言葉、私は恐れることも忘れて無遠慮に目を見開く。
まふくんは、表情を笑顔に変えて。
「慣れて、足かせは本当はしたくないんだけど、こうしなきゃA逃げちゃうでしょ?」
『…ッ、別に、』
「嘘」
私の手を握り、まふくんは笑う、嗤う。
ニコニコニコニコ。
「大丈夫だよ、Aのことは俺が一生支えてあげる」
『…ッ、』
「一番綺麗な今の俺たちの状態で、いつか“二人一緒に死のうね”」
『ぁ、』
スープをコトリ、置いて。
まふくんは、目を見開いたまま動けない私に口付けた。
深く、どこまでも深く。
それは、まるで彼の瞳に閃く闇のように深く。
名残惜しげに唇を離し、彼は慈悲深げに微笑んだ。
「大丈夫。Aに死ぬ恐怖に怯えさせたまま生きさせやしないよ。Aと俺の愛が深まったら、いつか、ね」
『っ、ぅぁ、』
「ほら、スープ飲んで」
手に握らされるマグカップ。
私はそれをゆるゆると握る。
まふくんは、その綺麗な笑顔のまま言った。
「A1日中眠ってたんだよ!いや、ずっと傍にいたけど寝顔も可愛かった!」
まふくんの口から発せられる声は、どこまでもまっすぐで。
――――…そして、言葉はどこまでも歪んでいた。
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私の前で語尾に矢印をつけないでください - 完成度高過ぎて🤦🤦 (2023年1月16日 23時) (レス) @page50 id: 28b1a8c3b0 (このIDを非表示/違反報告)
meal - なんだか深い小説でした 作者様のあとがきに色々と考えさせられました (2017年8月29日 19時) (レス) id: 94e05bb702 (このIDを非表示/違反報告)
みみね - カッコいい小説でした。 (2017年5月12日 20時) (レス) id: 4825a094c8 (このIDを非表示/違反報告)
さやえんどう(プロフ) - ナノハナさん» 久しぶりに見たらコメントが来ていたので驚きました。ありがとうございます!とっても嬉しいです! (2016年10月12日 17時) (レス) id: b6c08d2ce6 (このIDを非表示/違反報告)
ナノハナ - こんにちは、この小説を読みました。どのお話もすごく良かったです。特に狂愛のお話はあまりにも切なくて泣いてしまいました。 (2016年10月8日 13時) (レス) id: edb9894186 (このIDを非表示/違反報告)
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