最後の初恋 3 (ページ38)

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「ロンちゃん」ページ38

ロンちゃん。
その響きは、正直嫌いじゃない。でも心がむず痒くなるから、好きでもない。

よく俺をそう呼んで嬉しそうな顔をしていた生徒がいる。嬉しそうって、そんな良いものじゃなくて、揶揄っているようなものだけど。俺が苦そうな顔をしたり、怒った顔をすると必ずそうやって笑う。そして、肘でツンツンと突っついてくる。グラリと傾いた俺を見てまた同じような顔を浮かべる。

そんな彼女は、気まぐれで、マイペース。放課後は必ず校舎をブラブラして、いつまで経っても帰路に着こうとしない子だった。

後輩の一部には、彼女の風貌から、憧れやそれ以上の感情を抱く者もいた。俺が話しかけられていることをどこで知ったのか、彼女について訊いてくる生徒も多々。

陰で一定数の視線を集めていた彼女の目には、一人しか映っていない。そのことに気がついたのは彼女が高1の時。俺とアイツが同じ系統の人間、簡潔に言い換えれば、中国人であるということを聞きつけてやって来たのが始まりだった。

「ロンジュン先生。チョンロ先生について詳しく教えて下さい」

今となれば懐かしい呼び方と敬語。彼女の授業など一度も持ったことがなくて名前すらも知らなかった俺は、美術室にて授業で使う本を眺めながら、自己紹介くらいしろ、と言い放ったのを覚えている。そのあと「1-E パクA」と返されたからだ。それもかなり雑に。

条件は満たしたのだから、いいから早くこっちの要望に応えろ。その意思を強く感じて、負けず嫌いな俺は変なところでスイッチが入ってしまって。つい「そんな無礼なやつチョンロは好きじゃないよ」なんて言ってしまったのだ。

その時の丸い目と言ったら。その一瞬で無表情だった彼女に鮮やかな色が付いたように見えた。なるほど、彼女の中で、チョンロの存在はそういうものなのか。俺みたいな勘のいい人間なら一目見れば理解できるくらいに分かりやすい変化だった。

「嫌われるのはイヤです」って、正直に言うものだから、こっちがくすぐったくなって来てしまうような感覚。その真っ直ぐすぎる瞳に、とうとう俺は折れた。

本を閉じ、別に言ってもいいだろうと判断した範囲内で、俺が知っている限りのチョンロの情報を教えたらそれは2時間に及んだ。