最後の初恋 3 (ページ30)

今日:53 hit、昨日:31 hit、合計:28,435 hit

. ページ30

結局あのあと、お言葉に甘えて泊まることにした。ロロ先生が使っていた部屋を貸してくれたのは、きっとあのお爺さんの計らいだったのだと思う。前回そこを案内してくれたのもあの人だったから。

見覚えのあるドアが開いた瞬間に鼻に触れた香りに、思わず泣きそうになった。大好きな香水の香り。あのフィアンセの人のものとは全く違う、優しくて落ち着くもの。

もう会えないんだって分かっていた。チョンロ先生には奥さんとなる人がいて、自分のこの質素な恋心が実りそうにもないことも。でも、心のどこかで認めたくない自分がいて。

シルクの上に浮かぶおぼろげな月を見ながら、涙が頬を伝う。先生の隣に立つことを許されている人は、私よりずっと歳が先生と近くて、私よりずっとお金持ちで、私よりずっと先生に愛されている人。

もう私がここに来ることもないし、この香りを嗅ぐこともない。きっと、今夜が最後だ。そうなのだとなんとなく気がついていた。この勘はおそらく外れないだろう。

.

.

.

「私のこと、チョンロ先生から何か聞いてますか」

話しませんか、と言った彼は、私の質問に少し考えたあと口を開いた。「直接的にAさんの名前が出たことはないんですけど、多分、Aさんのことだったんだろうなって話は聞いたことがあります」

「『自分と似た境遇の生徒がいて、その姿を見ていたら辛くなった。何かできることがないか考えたけど、話を聞いて寝かせてあげることしかできなかった』って」
「え…」
「『幸せになってほしいのに』って言ってました」

“Aには幸せになってほしい。”

.

.

.

「…諦めなきゃ」

呟いた声は誰にも届かない。もう一度同じ言葉を呟きシルクのシーツをギュッと握りしめると、月がいびつに歪んだ。