○ ページ42
「お前、ゆめマスク持ち歩くなよ、壊したら弁償だぞ」
先生は驚いたみたいで、少し声の大きさが上がった。
「あ、すみません…」
悠馬のゆめマスクだ。そういえばさっき新兎くんに渡せば良かった。でも、壊すとか言っても、もう雨で水没して、動かないんだよね、これ…
…先生なら、直せるだろうか。
桐谷先生は相変わらずドリンクを吟味していて、「いや、やっぱ酒ねぇよな、学園だもんな」など呟いている。
「…せ、先生」
「あ？なんだ」
「……これ、な、直して、ほしくて」
ゆめマスクを両手で持って、先生に差し出す。
先生はおいおい…と額に手を当てた。
「…まさか、もう壊してんのか」
「……はい」
「…それ、いくらすると思ってんだ」
「……弁償は、します」
「……………」
先生はご飯のプレートをテーブルに置き、悠馬のゆめマスクを受け取った。
面倒くさそうにマスクの電源を押したり、かけてみたりしている。
「…………壊れてんなぁ」
はあ、と特大のため息をついた。
「何したんだよA」
「…その、水没しました」
「ああ、だからか」
そしてまたゆめマスクの状態を少し見て、うん、まあ、直せるわ。とつぶやいた。
「よ、良かっ」
「弁償な」
「…はい」
先生は無表情だ。私の事すら見てない。ゆめマスクを机に置き、またドリンクの吟味を始めた。
私も何か食べようとプレートを取りに行こうとすると、先生がなあ、と声を上げた。
「なんで望月のやつ待ってんだ」
「…！」
「壊しちゃったのかよ。そのせいで望月は帰ったのか？」
「ち、違います」
今度は私を見て、探るように淡々と言う。
柳の話するわけにもいかないし、なにも言えないで私も見つめ返す。
…少しの間、にらめっこが続いて、先生が「まあいいわ」と、視線を外して頭をかいた。
「……直してよー、どうすんだ？アイツ帰ったんだろ」
「……わかりません」
「……まあ、青春ってこったな」
理事長代理の言う事もあながち間違ってねえよなぁ、なんて独り言を言いながら先生はコーラを手に取って端っこの席に向かっていった。
…直して、たしかに、どうするんだろ、私。
でも、なにか、なんでも良いから悠馬に何かしたかった。間接的だとしても、悠馬に貢献したかったのだ。直すのは、先生だけど。
結局なにもできてないけど。
…。
目に入ったさつま揚げを皿に盛り、先生とは反対の端っこで食べた。
続く
お気に入り登録で更新チェックしよう!
最終更新日から一ヶ月以上経過しています
作品の状態報告にご協力下さい
更新停止している| 完結している
←○
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 179人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
クウ(プロフ) - 初めまして。続き楽しみです。 (2020年7月25日 17時) (
レス) id: e1d577414c (このIDを非表示/違反報告)
ハト(プロフ) - るーさん» 返信が遅れてすみません。ありがとうございます！短編集の件ですが、なかなか更新できていなくて、もう何話か書いてから公開しようと思っております。それまでお待ちいただけると嬉しいです！！ (2019年9月3日 7時) (レス) id: 28b0102360 (このIDを非表示/違反報告)
るー - 夢主ちゃんがすごくタイプで好きな感じです。ストーリーも面白いです！これからも応援してます！もしよければ短編集の方のパスワードを教えてもらってもいいですか？ (2019年7月30日 23時) (レス) id: e7803b918a (このIDを非表示/違反報告)
ハト(プロフ) - レス返せてなくてすみません！どの激励のお言葉も嬉しく読ませていただいています！！二期始まる前に完結させれるように頑張ります……！！ (2019年7月26日 16時) (レス) id: 28b0102360 (このIDを非表示/違反報告)
hermes753(プロフ) - 初めまして!めっちゃくちゃ面白くて一気読みしちゃいました。更新待ってます!!! (2019年6月18日 0時) (レス) id: 8867b9a324 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ハト | 作成日時：2018年11月29日 11時
