○ ページ29
その後は「思ったよりペースが掴めん……」とつぶやいた悠馬の手伝いをした。
漫画を描くのは初めてだったが私がいかんせん不器用なので、ラフをページ通りに並べたり書き損じた紙を片付けたりした。(つまり、私の仕事を見て描くのはやめましょうかと悠馬に言われてしまったわけだ。申し訳ない)
深夜零時を回ったあたり、私は爆睡してしまった。
やることがなくなって、柳の教科書を勝手に出して読みながら悠馬をチラチラ見ていたらいつのまにかソファーで寝落ちしてしまったらしい。
ぽんぽん、と肩を優しくたたかれ、ゆっくり瞼をあげる。
ぼんやりとピンク色が目に映った。
「……おや、眠り姫がお目覚めかな」
「……」
「フフ、僕は夢じゃないよ」
柳だ。既にヘアセットを済ませているので多分今は朝。柳から目をそらす様にしてソファーの上でもそもそと寝返りをうった。
柳は私の頬に手の甲をあて、そっと撫でる。
「もう少し寝顔を見ていたいところだけど、テストが始まっちゃうよ、A。寝癖を整えてあげるからおいで」
「…とんだ野獣が来たものですね」
「朝から皮肉が冴えてるね」
フフ、と笑う柳に緩くキックをかまし、起き上がる。
「ゆうまは……」
「悠馬ならさっきまで漫画を描いてたよ。ついさっき千里が来たから一緒に教室に行ったんじゃないかな」
「そんな時間ですか」
時計を見ると、確かにそろそろ寮から出た方がいい時間だ。悠馬は起こしてくれなかったのか？と少し目を細めて作業机を見つめると、察したように柳が応えてくれた。
「悠馬には、僕が起こすって言ったんだよ。プリンセスの寝顔を独り占めしようと思ってね」
「私にはそうゆうのいいです」
「釣れないね」
君の制服、取りに行っといたよと言って机を指差した柳に素直に感謝してから、普通にしていればいい奴なのに、と彼の顔面と心の隙間を呪った。
……昨日の悠馬に、だいぶ助けられた。カッとなって後輩にあたったりした自分の首を思い切り締めてやりたい気分すら鎮まった。今日は絶対、由仁君とついでに時雨に謝罪して、部屋に帰ろう。
望月悠馬の、ハッキリした顔を思い出して思わず「ひえ……」と情けない声が漏れた。カッコ良すぎ。
よく考えてみれば彼のライブを黒寮が乗っ取ってから、ちゃんと話す機会は無かったような気がする。改めて、彼の魅力を感じた。
礼を込めて彼の机に小さくお辞儀をし、洗面所で呼んでいる柳の方に早足で向かった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 179人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
クウ(プロフ) - 初めまして。続き楽しみです。 (2020年7月25日 17時) (
レス) id: e1d577414c (このIDを非表示/違反報告)
ハト(プロフ) - るーさん» 返信が遅れてすみません。ありがとうございます！短編集の件ですが、なかなか更新できていなくて、もう何話か書いてから公開しようと思っております。それまでお待ちいただけると嬉しいです！！ (2019年9月3日 7時) (レス) id: 28b0102360 (このIDを非表示/違反報告)
るー - 夢主ちゃんがすごくタイプで好きな感じです。ストーリーも面白いです！これからも応援してます！もしよければ短編集の方のパスワードを教えてもらってもいいですか？ (2019年7月30日 23時) (レス) id: e7803b918a (このIDを非表示/違反報告)
ハト(プロフ) - レス返せてなくてすみません！どの激励のお言葉も嬉しく読ませていただいています！！二期始まる前に完結させれるように頑張ります……！！ (2019年7月26日 16時) (レス) id: 28b0102360 (このIDを非表示/違反報告)
hermes753(プロフ) - 初めまして!めっちゃくちゃ面白くて一気読みしちゃいました。更新待ってます!!! (2019年6月18日 0時) (レス) id: 8867b9a324 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ハト | 作成日時：2018年11月29日 11時
