■ ページ36
.
目的の場所までおよそ20分。
片手はハンドルに掛けたまま、内ポケットから煙草の箱を取り出し、素早く一本抜き取って口に咥えた。
何とも言えない感情を無にしたくて、ルーティン的に吸っている煙草を吸いたくなった。
ちょうど赤信号になったことを合図に、ジュッとライターで先端に火を灯す。
少し窓を開け、フゥ、と口から煙を吐き出せば、さっきの出来事がふと頭を過った。
別れる手前、彼は俺にこう言った。
『まだ俺ら…友達続けられる？』
そして俺は彼にこう言い返して、その場から立ち去った。
『今度飯奢れよ』
かっこつけたわけじゃないけど、俺をよく知る彼になら伝わっただろう。
互いに互いをよく知っているくせに、どうしてこういう結末になったんだろうかと不思議に思う。
俺と彼の関係は“友達”としては良好だけど、“恋敵”としては最悪だった。
もう二度と敵に回したくない。回すことは今後一切ないけれど。
「…アイツしかいない、か…」
潤くんに向かって吐き出した言葉を、無意識に口に出してもう一度繰り返していた。
「バカだなぁ、やっぱ俺…」
青信号に変わる手前、自分の言葉に自分で笑った。
.
チエちゃんの家からAを車で連れ帰った。
車の中ではどちらとも口を開くことなく終始無言だった。
伝えたいこと話したいことは山ほどあるのに、気持ちの整理が上手く出来なくて、何も言葉が浮かばなかった。
珍しく動揺していたのかもしれない。
家に帰ってから、見慣れた景色に君がいることがどんなに幸せなことだろうかと思えば、感情のコントロールが出来なくなっていた。
ほぼ衝動的に、自分の腕の中に君を閉じ込めて、確かに君がココにいることを確認するように抱き締めていた。
あまり背の高さは変わらないけど、俺の身体とは違って柔らかくて華奢だった。
それが何だか恋しくて、愛しくて、好きだ、と心の底から思ったんだ。
君を抱き締めたまま、内に秘めていた女々しくて情けない気持ちを、気が付けば全部吐き出してしまっていて
俺は自分が思っているよりも、相当不安を抱えていたんだと思い知った。
そんな俺を包み込んでくれた君には、多分一生敵わない。
だけどこんなときでさえ強がって捻くれたことしか言えない天邪鬼な俺は、意地を張って余裕ぶっていた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2791人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
やっち(プロフ) - こんにちは。パスワード教えてほしいです (2021年10月24日 8時) (
レス) @page50 id: cc7865b69e (このIDを非表示/違反報告)
妃紀(プロフ) - ともさん» 最後まで読んでくださりありがとうございました。お互い片想いしてたのですが、すれ違ってしまい、数年越しにやっと結ばれました！これから先は「結婚しよっか？」と彼は言い続けることでしょう(笑) (2019年10月29日 18時) (レス) id: ad41dd4440 (このIDを非表示/違反報告)
とも(プロフ) - 初めまして。やっとここまで辿り着きました！お互いにずーっと片思い？すれ違ってやっと繋がれた。もぉー感動しかないです。｢結婚しよっか？｣の言葉に号泣。 (2019年10月26日 16時) (レス) id: bd0ebe94fc (このIDを非表示/違反報告)
妃紀(プロフ) - えりさん» コメントありがとうございます♪最初は本当にじれったすぎて、甘さは控えめでしたが、最後はもう甘さの加速が激しかったですね(笑)こちらこそ、長い間お付き合い頂きありがとうございました。 (2019年2月5日 23時) (レス) id: ad41dd4440 (このIDを非表示/違反報告)
えり(プロフ) - 完結ありがとうございます！ジレきゅん(^^)最初がジレジレだったので、最後のキュンのラストスパート最高でした！最初のジレが無かったんじゃないかと思うくらいの甘い終わり方、大好きです(^^)朝から幸せな時間ありがとうございます！ (2019年2月5日 8時) (レス) id: faf246fb32 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：妃紀
| 作成日時：2018年10月9日 20時
