一度のキス ページ29
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大学三年の冬。潤くんと出会う前だった。
講義終わりにチエちゃんと一緒に二宮の家へと向かう。
三人とも受講している一般教養のレポートを、一人暮らしをしている二宮の家ですることになった。
「開けろー」
インターホンに向かってチエちゃんがそう言うと、「うっせぇ」と言う二宮の声と共にオートロックが解除され、ドアが開いた。
広いエントランスを抜けて、エレベーターに乗り込み５階のフロアへと向かう。
「ホントこんなこと住めるの羨ましいわ」
「ね、大学生のくせに」
「金持ちのくせにケチってどうなの」
チエちゃんはボソボソと二宮への文句を笑いながら零す。
普通の大学生では住めないようなマンションに住んでいる二宮。
実家暮らしで通学には一時間かかっている私たちは、時々二宮の家に泊まることもあった。
501号室の前で再びインターホンを鳴らすと、ガチャっとドアが開いて二宮が顔を出した。
「サボり」
チエちゃんがそう言えば「うるせぇな」と二宮が面倒臭そうに返す。
三限目の講義は二宮も履修していたはずなのに、二宮の姿はなかった。
こういうことはしばしば。
真面目に受講している私たちよりも、二宮の方が点数が良いのが腑に落ちない。
部屋に上がると、すぐに二宮はテレビの前で胡坐をかきコントローラーを手に持つ。
「レポート」
私がそう口にすれば「あともうちょいなの」とテレビの画面を見たままコントローラーを器用に操りながら返された。
チエちゃんがソファに腰掛けたから私もつられてその隣に座る。
ソファの前のローテーブルには、いくつもの吸い殻が乗った灰皿と煙草の箱とライター。
やっぱりいつ来ても普通の大学生が住むような部屋ではない。
三人いても全く窮屈に感じない部屋。
ベッドは最近セミダブルに変えたと二宮が自慢していたのを不意に思い出した。
シングルベッドでいいじゃん、と思うし、まあこの部屋を考えたらセミダブルでも釣り合うか、と納得する。
どっちにしろ、二宮の事情はどうでもいいこと。
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作者名：妃紀
| 作成日時：2018年4月10日 19時
