□ ページ17
.
「時間大丈夫かよ」
「間に合わない！」
「送ってやるよ」
「車なの？」
呑気に朝風呂をしていたら時間がギリギリになっていた。
二宮は何故か焦った様子ではなく平然としていた。
二宮は時間大丈夫なの？と訊けば、「俺フレックスだから」と言うからカチンときた。
想像通りデキる男だった。完璧じゃないのに要領がいい。
大学でも寝てばかりだったくせに私よりも良い点数を取っていた。
おまけに四年間単位を一つも落とすことなく難なく卒業した二宮。
それを思い出してまたカチンときた。
「じゃあ送って」
「素直だな」
「今日は例外」
本気で間に合うかどうかの瀬戸際。
ほら行くぞ、と言う二宮はやっぱり颯爽とした態度で、さっきまでひょこって跳ねていた髪も綺麗に整えられていた。
.
助手席に急いで乗り込むと、すぐに車を発進させた。
赤信号の間に煙草を咥えた二宮に、やっぱり無意識に「やめてよ」と言えば「やめない」と返される。
一生負けが決まったルーティンにも、二宮は何も言わずに付き合ってくれる。
私が本当にやめてほしいと思っていないことを見抜いているくせに、二宮はこれ以上そこを言及するのはやめたらしい。
それが心地よかった。
突っ込まれても上手い返しが出来ない。
だけど無意識に口が滑ってしまうから一生繰り返すことになりそう。
無駄なやり取りを正当化できないことが決まった。
「付き合おう」
白い煙は苦い。青に変わってハンドルを握る二宮をチラリと見た。
「私のこと好きなの？」
白い煙の中だけ、素直になりたかった。
糸は複雑に絡み合って、よく分からない感情に埋め尽くされる。
こんなバカなことを訊いてしまう理由は、一体どこにあるのか。
「ダイスキ」
語尾にハートがついていない言葉は前を向いたまま言われる。
バカみたいな質問の答えは、バカみたいな安っぽいコトバで返されると思っていたのに、切り返しを変えてきた。
「お前は？」
「二宮の顔は…好きだよ」
「素直じゃねぇな」
目を合わせずに、フハッて笑う二宮。
変わることを願った私の想い。
変わらない二宮の想いと同じ想いになれたら楽なんだろうな…と窓の外の景色に目を向けた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1721人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：妃紀
| 作成日時：2018年4月10日 19時
