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「おかえり」が無性に恋しく思えた。
「ダイスキ」というふざけた言葉と同じくらい恋しく思えてしまった。
だらんとソファに座った二宮が煙草を咥えた姿を視界に入れた瞬間だった。
プツン、と何かが切れる音。
「泣くなよ」
潤くんの声じゃないのに、その「おかえり」が恋しくて、気付けば泣いていたことに気が付いた。
自分が泣いていることに、二宮のその高い声によって気付かされる。
泣いてない、と言えば、ぽつん、とフローリングに落ちた透明な液体が見えた。
「泣いてんじゃん」
「泣いてない」
「泣いてる」
「泣いてない」
この瞬間でさえ無駄なやり取りを繰り返す。
どれだけこの無駄なやり取りが好きなの私、って余計なことを思いながら頬を伝う涙を拭った。
「煙草」
「やめねぇよ」
白い煙が顔にかかって顔を上げれば、二宮が見たことないくらい真剣な顔をして私を見ていた。
「好きだ、付き合おう」
フゥ、と白い煙と一緒に吐き出した言葉。
決まりきったフレーズを変えてきた。
この瞬間に変えてこないで、と我が儘が顔を出す。
早くそのフレーズをどう切り返すべきかの術を身につけたい。
ノールックじゃない。目を見て言われたのに、そのフレーズが今までで一番響いてしまった。
どんどん更新していく重み。
目と目を合わせたのに、変化球に対応できなくて目を逸らせば、「嘘でもいいから、うんって頷けよ」と二宮が苦しそうに笑った顔が、視界の端に見えた。
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作者名：妃紀
| 作成日時：2018年4月10日 19時
