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終業までの寂しさに慣れることはないけど、さっき"今日は特別"って亮平くんのハンカチも貸してくれたから、今の俺は無敵だ。
隣の同僚が離席したのをいいことにモスグリーンのそれを鼻に押し付けたら、亮平くんの会社用の香水が微かに匂う。
元々、亮平くんは総務部じゃなくて俺の教育係として同じ部署にいた先輩だった。
新入社員として頑張らなきゃって当時の俺はそればっかりで、自分の体調が悪化していく一方だって気づかなくて。
そんな俺を、公私共に守ってくれたのが亮平くんだった。
俺と亮平くんが出会えたのは、きっと必然。
だって、こんなに俺を満たしてくれる
この隣の席も、ずっと亮平くんだったらよかったのにな。
部長の席が空いて適任者を探していた役員の目に止まった、とか風の噂で聞いた。
まあそのおかげで毎日逢引できてるから、上層部には一応感謝してる。ちょっとだけ。
mm「お先に失礼します。」
亮平くんのこと考えてたら定時になったから、速攻エレベーターをつかまえて点灯したB2のボタンに早くはやくって念を込める。
ボタンの光が消えて、隙間からすり抜けて目的の車に駆け寄ったら、やっぱりもう居てくれた。
mm「ただいま！」
ab「おかえり」
mm「4時間ぶりの亮平くん…」
ab「ふふ、お疲れさま」
亮平くんに“頑張ったね”って抱きしめてもらうために働いてるもん、俺。
mm「亮平くんのハンカチ効果覿面だったよ、俺の好きな匂いした」
ab「嗅いだの？恥ずかしいな」
運転しながら俺の話に耳を傾けてくれるところもかっこいい。
mm「そうだ、来年度の総務部への異動希望も求人応募も多いんでしょ？絶対みんな亮平くん目当てじゃん、やだ」
ab「誰から聞いたの？」
mm「人事部の同期。阿部さんが部長になってから急にだよっていじわる言われた」
ab「ふははっ、そうかなぁ？」
亮平くんは鈍い。ハイスペックすぎるから性別問わず注目されちゃうのに、当の本人はそう思ってないから狙われてても全く気づかない。
ab「蓮こそ、今日も飲み会断ったんだって？」
mm「だってつまんないし。なんで毎回断ってるのに声かけてくるんだろう」
亮平くんいないのに行く意味ないもん。
ab「それはやっぱり、蓮に来てほしいからだろうね」
mm「なんで？」
ab「よし、着いたよー」
タイミング悪く家に着いちゃって、話を遮った亮平くんに手を引かれるまま背後で玄関の扉が閉まった。
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作者名：微.
| 作成日時：2023年7月29日 1時
