［unconventional］ (ページ17)

今日:6 hit、昨日:102 hit、合計:94,349 hit

_________ ページ17

.

25歳になって、漸く主要キャラクターの声優として仕事を貰えるようになった。
でもひとつ困ったのが、恋愛もののアニメ。

実際俺は、まだ翔太を忘れられないおかげで一切恋愛経験がない。
キスもそれ以上も…なにも知らない俺が、キスシーンもあるキャラクターを担当することになって。

心情を汲まないと、声を充てづらいのに。
本番では、翔太とキスをしたらどういう気持ちになるか…それだけを想像して声を吹き込んだ。

実際に見た視聴者の反応が気になってエゴサーチしたら、幸いにもキスシーンの評判は良かったみたい。

俺の仕事が増えるにつれて、翔太も曲のリリースが増えてきた。

専門学校卒業後から、よく通ったカラオケがある駅を最寄りに一人暮らしをはじめた俺は、翔太の歌を歌いにひとりで行ってたんだけど…

俺が27歳になったくらいに、潰れてしまって。
翔太との思い出の地がひとつなくなるだけなのに、すごく悲しかった。

ちょうど気が沈んでいた頃、翔太がさいたまスーパーアリーナで来日公演をすることになった。
当選して獲得できたチケットは、残念だけど翔太から近いとはいえない席で。

でも、距離なんて関係ないんだね。
翔太がステージに立ったシルエットを見た瞬間、俺の涙腺は悲鳴をあげた。

なかなか泣き止まない俺を、隣のファンの人が背中をさすってくれて。
過去に嫉妬したことを悔やむくらい、翔太を応援してる人はあったかい人たちだなぁって実感した。

MCでは、日本語を忘れないためにも、日本のドラマやアニメをたくさん見てるって。
翔太は俺が声優になれたこと、知っててくれてるのかな？

俺は声優になる頃、芸名をつけるかどうか打診されたけど、万が一翔太にも見つけてもらえるように、本名で活動することを決めたから。

それから、雑誌のインタビューと動物番組のナレーションの仕事が舞い込んできた。

インタビューを受けたら、俺の容姿も世間に知れ渡ることになる。多少不安はあったけど、これも知名度をあげるため。
…翔太の目や耳に入る可能性を増やすため、受けることにした。

俺がヲタクだった時代は、声優さんが容姿を晒す機会は滅多になかったんだけど。今や制作発表会見や映画の舞台挨拶に登壇することは当たり前。

さらには念願だったソロでのラジオパーソナリティも務められるようになって、心にぽっかり空いた穴はそのままでも、仕事面では順風満帆な生活を送れている。

.