っ ページ27
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『……もう誰も来ないだろうしさ、ちょっと早いけど、……帰る?』
次の委員当番の日、利用者のいなくなった終了5分前にAが言った。文庫本から顔を上げない、否、上げる勇気のない俺に気まずそうにしたAが、隣に座ってからずっとスマホを触っているのが気になって、あかんと分かっていながらちら、と覗いた液晶にはチーノとのメッセージ画面。さすがに内容までは見えへんし見ようとも思ってないけど、気にはなる。チーノは俺に「そんなんちゃう」と言ったけど、それは現状の話ちゃうんか、とつい悪態をつきたくなった。そんなんちゃうとしても、仲良いやんけ。リズム良くぽんぽんとやり取りの進むそれに対して、俺とAのやり取りなんて、水族館の待ち合わせを決めた以来何もないのに。……そのあとわりとすぐ俺があんな態度取り始めたし、当たり前やねんけど。
「…………俺と2人でおんのは気まずいっすよね」
思わず出たそんな言葉が、Aに届かなくてよかった。俺が勝手に作り出した気まずい状況を、それでもAが底抜けの素直さでどうにかしてくれるんじゃないか、なんて女々しい期待をしていたのが透けてしまうから。鍵は自分が返すからと俺を部活へ送り出したAに、何かかける言葉はないかと振り向いてみたけど、普段から人との関わりに注力しない俺の引き出しには何も入ってなくて、結局そのまま歩き出した。
次の日の昼休み、前からAが歩いてくるのに気づいた。はっとして思わず俯く。
「意気地なし」
Aの肩に腕を回すチーノの言葉に、俺は何を返すことも出来ひんかった。
「あ、良かったショッピもう部活行ったかと思ってた」
「部室で着替えててもう部活行かなあかんねんけど、何?」
「見ててイライラすんねんなー。吹っかけても大した進展ないし」
次の日の放課後、突然チーノからかかってきた電話に、珍しいなと部活の時間が迫っているにも関わらず出てしまった。心做しか楽しそうにしてるのが癪に障る。こいつが分かりやすく楽しそうにしてるときはだいたいろくなことがない。
「てことで、ちょおこのまま電話繋いどいて、絶対切んなよ!」
「はあ!?今から部活やって言っとるやんけ!」
「……」
「おいチーノ!」
繋がったまま反応のなくなった電話を、舌打ちしながら切ろうとしたそのとき、向こう側から聞こえてきた声に、通話終了をタップしようとしていた俺の指はぴたりと止まった。
syp side fin.
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馬場(プロフ) - 箱の湯さん» 箱の湯さん!こちらこそたくさんの嬉しいお言葉、感無量すぎます!本当ですか笑 ありがとうございます楽しみにしてますわたしも大好きです!!! (2月12日 19時) (レス) id: 26dcf45128 (このIDを非表示/違反報告)
箱の湯(プロフ) - 馬場さん» ゥオ!!まさか返信を頂けるとは思っておらず...!まさかすぎて感無量ですねエハイ!!!にしても馬場さんが描く新人組は健康にイイなア...。いつかライフラインの横に「馬場さんのイラスト」の項目を追加しますネ!!!!楽しみにしてて下さい!!!大好きです!!!! (2月10日 20時) (レス) id: 23839ce7d7 (このIDを非表示/違反報告)
馬場(プロフ) - shiyuさん» shiyuさん、コメントありがとうございます!どストライク……!?嬉しすぎます!こちらこそ読んでくださってありがとうございました! (2月10日 18時) (レス) id: be3a9a489c (このIDを非表示/違反報告)
馬場(プロフ) - 箱の湯さん» 箱の湯さん、コメントありがとうございます!めちゃくちゃ嬉しいンですケド…!最後までお読みいただきありがとうございました! (2月10日 18時) (レス) id: be3a9a489c (このIDを非表示/違反報告)
shiyu(プロフ) - 久々にこんなにどストライクな小説に出会えました。ありがとうございます。 (2月8日 21時) (レス) @page30 id: 199c730010 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:馬場 | 作成日時:2024年1月19日 21時