ハダカノオツキアイ＃７ (ページ7)

今日:2 hit、昨日:0 hit、合計:794,866 hit

大食い。ページ7

「お待たせいたしましたー。特上特盛セットですね」

この店で一番高くて量が多い定食は、迷うことなくカチョーの前に置かれたけど。
すいませんね、おねーさん。それ頼んだの、私ですからね！

「場所、交代しようか。移動するの大変そうだし、これは」

店員さんが居なくなったあと。彼はクスクス笑って立ち上がった。

「バランス考えて頼んでくださいよ。私だけ大食いみたいだし」
「俺、そんなに食べられないもん」

まだ、クスクス笑う。私だって別に！いつもそんなに食べないわよ。察しろよ！

そうして、席を交代することになって。

狭い個室、すれ違う時の距離が近くて……

そんなの意識するな、しちゃだめ、って思うのに。

「っな、に。ちょっ、と！」
「……ごめん」

一瞬、視線が繋がって。

彼の腕が……私を捕まえてた。

「もし次に俺がなんかしようとしたら、突き飛ばしていいから」
「っは？何、言っ……離し……」
「たくさん、ごめん。傷つけて……きっといっぱい泣かせて……ごめん」
「……」

脱力した。

ずるずるとその場に崩れたのは……彼の腕が急に解かれたせいと。
そんなこと……初めて、言われて……。

「なん……今さら……」
「あいつ、たぶん全部知ってたんだね。今朝家を出る時に言われた、“遅くなってもいいよ”って」
「……」

彼も、座り込んだ私の目の前にしゃがんでる。

すごく……近い所に居る。

「“ずっと早く帰るよ”って答えたら、泣いちゃって」
「……」

私の頭を撫でて。頬を撫でて。

もう一度ぎゅって抱えられた時には、心地がよくて……ドキドキした。

「おまえに幸せになって欲しい。俺が幸せにしたかったのに……ごめん。自分が幸せにしないといけないのはもう、おまえじゃないって……やっとわかって」
「……遅い、から」
「うん。本当に色々もう、だめ過ぎてるよね」
「知ってるし」
「A。ごめんね……別れよう」
「っ、何……今さら！」
「うん。これは俺のためだから。ごめん、だめ過ぎるから」

どうしようもない、この人！
今さらダメージ与えてくるとか、どんだけバカ？
俺のためって。どんだけ自分勝手……なのよ……

「……最低」
「うん。知ってる」
「バカ！」
「知ってる……ごめんね」
「……ばか」

彼の胸で泣ける日が来るなんて思わなかった。

ずっと、色んなものを見ないフリして。うまく遊べるドライさを演出して。

そうして私は……きっと自分を、守ってきたから。