べーが欲しい。 ページ3
朝に玄関を出る時。縁側でラジオ体操するじーちゃんが私を呼んだ。
「酒がなくなったでー」
「……へいへーい」
「べーもなぁ。べーも」
「……へいへーい」
酒と“べー”を買いに行く。忘れそうだな。
先にべーだけ買っとくか。
お酒は……さすがに朝っぱらから買って職場に持ち込むべきじゃないわね。
外に出ると。朝からこれでもか！ってくらいの秋晴れ天晴れ。
例年よりも早く引っ張り出してきたショートブーツのヒールが、嬉しそうに鳴ってる気がして。
ちょっと良い気分の水曜日。うん、いい感じだと思う。
翔に……ヨコシマに頼ったりしちゃ、だめなんだから。
しーあわせってなんだろー……
って！音楽流せば、イヤホンから聴こえてきたのが奴だし！なんつータイミング。
あ。そういえば……ちょうど来週じゃね？そっか。次のアルバム来るのか……コンサート……
と思い出して、複雑な気持ちになった。
すっっかり。今回申し込むのすら忘れてましたからね。
色々ありましたからね。あははー。
……別に。いいんだけどさー。
連絡できるし。昨日だって会ったし。いざとなれば？くるくる回らせればいい。
なんて、ね。
嫌だな。中途半端なこの、誰に対してかわからない優越感。ちっさいな、私。
「……っふ」
SMSの履歴をチラ見しながら、揺れる車内で笑いを堪えた。
そして。昨日貰った返事、何も返してなかったって思い出して。
“早く帰るし。じーちゃん酒待ってるし。今夜はじーちゃんと晩酌するよ。”
そう返した朝8時、おりる駅まであと3つ。
もう翔も仕事行ってるかなぁ、とか考えて。
ちょっとだけ期待した返信は、駅を出ても来なかったけど。
「べー。べーのチーズ……」
途中にあるドラッグストアで、じーちゃんご指定の菓子を探した。
じーちゃんのせいで私までべーべー言うようになっちゃったからね。
ちゃんと名前覚えてあげなよ。翔のお友達が宣伝してるんだから。
オトモダチ？仲間だね。とにかく、何物にもかえられない大切な関係の……
「……好きなの？これ。あ、そっかチーズ……」
「っ、お！っは……まっす」
「ふふっ。何それ。挨拶になってないよ」
だって！ここで会うとか反則でしょう！
心の準備が出来てないのに！
「まだ何か見る？」
「っはぃ？あ！えーそうですね！色々とまだ？」
「そっか。外で待ってる。これは先にいい？」
「は……ちょっ！」
……カチョーが。私のべーを、勝手に持って行った。
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作者名：みつな | 作者ホームページ：
作成日時：2015年11月30日 23時
