二課目 〃 ページ29
『え』
俺の声が届いたのか、彼女はこちらを振り返る。やば、と思ったのは向こうも同じだった。
夜だというのにわかりやすく血の気が引いていて、あんぐりと口を開けていた。
『にん、げ・・っ！！』
ウェーブのかかった髪を振りながら、彼女は海の中に沈み込む。俺は無意味に手を伸ばし、そして引っ込ませる。
夢だった？
そんなわけない。
確かに見た。人魚が、歌っていたところを。俺の頭では音痴の人魚など想像することはできん。
岩の下の広がった波紋は、ゆっくりと小さくなっていく。
sha「・・勿体無いことしたかなぁ・・」
がりがりと頭を掻き、夢心地のまま先程の岩を見る。シルエットは浮かび上がるのに、実体はもういない。
sha「・・・」
罪悪感と喪失感を紛らわすよう、俺は歌を歌う。今度はさっきよりも大きな声で。さっきの子への謝罪の代わりに。
『ねね』
sha「うおっ！？」
唐突な声に、俺は驚いて尻餅をつく。
人魚は、さっきよりも俺の目の前の岩に座っている。ここまで近寄られて気づかんかったって、俺どんだけ歌に熱中してたねん。
『・・・』
sha「・・・」
『・・・』
sha「な、なんですか・・」
じぃ、と、海の底のように深く暗い瞳。逸らすにも剃らせず、思わず声が出る。
『・・わ、わたしって、おんち・・？』
sha「へ？」
少女のような、震えて泣きそうな声。
『い、いや、わかってるよ、分かってたよ！？だけどそんなはっきりと言われたらさ！！』
大きな瞳からは、雫が浮かぶ。
sha「え、あ、いやでも！そ、そこまでやなかったよ！」
なんで言い訳してんの俺。
『いやいいんですわかってるから・・生まれてこの方歌上手いなんて言われたことないから・・』
肩を落とし、本気で落ち込む人魚。
『あなたは歌うまかっ・・・』
しかし次の瞬間、弾けたように顔を上げる。
『歌うまかったよね・・？』
sha「へ？あ、ありがと」
『ねぇ！』
人魚はその細い腕を伸ばし、綺麗な手のひらを俺に当てる。ひんやりとしていて気持ちがいい。しっとりとしていて柔らかい。いや、いやいやいや！何童貞みたいなこと思っとんの俺！！
『教えて！』
sha「は？何を？」
『歌！』
大きな瞳は太陽よりもらんらんと輝きながら俺を写している。目の前の俺は、面白いくらい顔が引き攣っていて。
『私もあなたみたいな歌が歌いたいの！』
sha「いやいやいや！俺別に歌の教師とかじゃないからな！？」
必死に首を降るも、彼女はじいとこちらを見るばかり。
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まうるもち - 好きです....文章が神.....いつの間にか読み終えていた不思議 (2019年10月7日 23時) (
レス) id: a48c43d4d7 (このIDを非表示/違反報告)
碧月(プロフ) - 紫龍さん» 誤字ですごめんなさい！ご指摘ありがとうございます！ (2019年10月3日 6時) (レス) id: 8ab1994adc (このIDを非表示/違反報告)
紫龍 - 碧月さん» 失礼します…knさんの2条目『後者裏』って『校舎裏』の事ですか？誤字とかじゃなかったらすみません！！ (2019年10月2日 23時) (レス) id: ed1de518a2 (このIDを非表示/違反報告)
碧月(プロフ) - アルムさん» ご指摘ありがとうございます！ (2019年9月29日 9時) (レス) id: 8ab1994adc (このIDを非表示/違反報告)
アルム(プロフ) - コメント失礼します！碧月さんの作った小説はやっぱ神ですね！途中で気づきましたがemさんの小説の六限目の２０行目の「…そらは愛おしさへと…」は「…それは愛おしさへと…」じゃないでしょうか？間違ってたらすみません！更新楽しみにしています。 (2019年9月29日 8時) (レス) id: 9866a4ca3f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：碧月
| 作成日時：2019年9月17日 6時
