甘さ控えめに【橙】 (ページ1)

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たった数秒前

目の前で乗るはずだった電車が過ぎていく

今の便が最後だったのに乗り過ごしてしまったのだ。

「うわー、まじ最悪…」

駅のホームでもう1人の声がした

その方を見れば、大きなギターケースを抱えた小柄な男性がいて

私の視線に気付いたのか気まずそうに軽く頭を下げ、私もつられて同じように会釈をした。

…あ、彼、たまに見かける人だ。

朝たまに一緒になって男の人にしては肌が白いな～とか、吊革に掴まったまま寝てる人だ、

なんて小さなことを思い出した。

「さっきの逃した感じですか？」

『はい、……そちらも？』

「友達と話してたら電車の存在忘れてて…(笑)」

『お互い災難でしたね』

くしゃりと目尻が下がった彼の笑顔

不覚にもきゅんときた。

マスクだからはっきりと顔は分からないけれど、可愛らしくて、ドキドキした。

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タクシーで帰ろうと外に出るけれどタクシーが通ってるような感じはなくて、明日は休みだし、ゆっくり歩いて帰ろうかな。

「あの、」

『はい？』

「どっち方面です？今日もなんかの縁ですし、良かったら一緒に帰りませんか」

普段なら初めて会った人にこんな風に誘われたら断るはずなのに、

仕事で疲れてたから、冷静な判断が出来ずに彼のその言葉に頷いた。

「俺が降りるひと駅前なんだ」

『そうですね、たまに見かけますよ』

「まじ？恥ずかし……」

なぜだか分からないけど、次から次へと話題が出てきてあっという間に家に着いてしまう。

彼はなんだか不思議な人だ。

楽しくてもう少し話してたいと思ってしまった。

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