不器用…�� ページ4
時刻は午後三時を過ぎたところだ。
シェリンは買い出しと見回りに行くと告げて、事務所を空けている。
私は寝室の小さな机でのろのろと作品を執筆していた。
すると、突然。
「どうも、こんにちは！！」
正面玄関の方から大きな挨拶が聞こえてきた。
私に対する悪戯だろうか。彼は時折、些細な事を悪戯と称して私に仕掛けてくる。そして楽しそうに笑うのだ。そんな様子を見ていると、こちらまで笑顔になる。
向かおうとした時、誰かが挨拶を返す声が微かに聞こえた。
きっとお隣さんが出てきたところに、戻ったシェリンが出くわしたのだろう。彼は誰に対しても少し過剰なくらいの声量で挨拶をする。
「いや〜すっかり寒くなりましたよね。
奥様も体調崩されないように！」
シェリンの発言だけ丸聞こえだ。思わずくすりと笑ってしまう。
出迎えようと、玄関の扉の前で待機する。
少し驚かせてもいいかもしれないなんて、意地悪な思考が頭をよぎった。
では！！という声から少し間を置いて、目の前の扉が開く。
帰ってきたターゲットに、私は勢いよく抱きついた。
「うわぁ！！！！！」
事務所内と目の前の通りに、大きな声が響いた。
通りを歩いていた人達が目を丸くしてこちらを見つめている。
「あー…あはは、すみませんね…。」
気まずそうに呟いた後、私を抱えて逃げるように事務所に入るシェリン。
少しやりすぎたかもしれない。謝ろうと口を開きかけた瞬間、唇を塞がれた。
先程から一転して沈黙が流れる。
驚きとときめきで頭がいっぱいになった。
抱かれた腕の力が抜け、名残惜しそうに唇が離れる。
シェリンは切なそうな、恥ずかしそうな顔をしていた。
「困ったな…。
いつからAはそんな悪戯っ子になったんだい？」
「えっ…と、その」
「奥に行こうか。」
有無を言わさぬような雰囲気に、私はただはいと頷くしかなかった。
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作者名：てる | 作成日時：2021年12月12日 16時
