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不穏 ページ36

「あー、俺ちょっと席外すわ」

そう言い切った刹那、ガコンと高性能なヘッドホンが投げ出され、机上の空き缶が揺れる。
持ち主の消えた柔らかな黒椅子が名残惜しそうに呻き、速度を落としながら半回転した。

接続されたPC画面が切り替わり、整列された長方形の中でいくらかのシアンカラーが動いてみせる。
無情にも物言いたげな彼らの姿は常闇に消えていった。


閉め切った薄暗い部屋の扉が重々しく開き、澄んだ空気が入り込む。
気だるげな表情のまま細身のボーイはやつれた首元に手のひらを当てがい、角張った指を突き立てた。
しかし、肩の筋肉を力無くさするだけで、ほとんど意味のない行為なのだろう。
代わりに生白い皮膚が指の跡に沿って赤みを帯びていた。

「……いつから」

余韻を残し、足音が止まる。
ギリギリと締めつけていた手指が離れ、正面の空を切った。

ああ、これからのことなど微塵も考えたくなかったというのに。

辿々しい手つきで立てかけられた懐中電灯を掠めると、口角を引き攣らせて微笑した。





「バカじゃねぇの?」

自身が放った言葉のような気もするし、誰かに吐き捨てられた言葉でもあったかもしれない。

ハイカラシティの四強であるマスクは、クイックボムを投じ、カーボンローラーを躊躇いなく振り下ろしながら、そんなことを考えていた。

「待ってこれ無理──」

背中を破るような彼の一振りが後の羅列を消す。

行く手を阻むS+の猛者達が息をつく暇もなく叩きのめされ、表面の擦り切れた武器が沈んでいった。

カバーに立ち回れなかったスピナーが狼狽えて後退するも、敏速な勢いは止まる所を知らない。

普段通り潜伏を旨とし、チェイスボムを巧みに操る彼であれば、きっとこうはいかなかっただろう。
それが今では、額を伝って小鼻から滴り落ちる敵色のインクでさえ、似つかわしく思えるほどだった。


クイックボムを避け、有利な距離を保つためにスピナーが飛び上がるのと、スペシャルを切る音とがほぼ同時であった。

途端に相手のギアが宙を舞う。
次いで、スーパーショットが命中するその間際まで撃たれていた弾が、雑然とした軌道を描きながら彼の太腿を濡らした。

直後、カランと転がってきたボムが視界に入る。
前方に目をやると、引き金に指をかけたチャージャーが眉をひそめたまま画然として立ちはだかっていた。

インク紛れに汗が滲む。

つい先程捻り潰した、鋭利な金蓮花の瞳がスコープごしに彼の脳天を捉えていた。


撤退がかなわないことは明白だった。

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しゃぼん🫧 コロイカダイスキ - ニヤニヤ…。 (3月5日 18時) (レス) @page33 id: 4cc781ec23 (このIDを非表示/違反報告)
あすあま(プロフ) - mariaさん» ふふ…毎度何かと世話焼きな彼、素敵ですよね!亀ペースですが、彼らの行く末を気長にお待ちくだされば幸いです。 (8月5日 23時) (レス) id: 5f256feba8 (このIDを非表示/違反報告)
maria - マスクくんの反応が気になるのでマスクくんお願いします! (8月4日 18時) (レス) @page35 id: 4c43ea808a (このIDを非表示/違反報告)
あすあま(プロフ) - アーミー好きさん» こちらこそキャラの魅力を感じてもらえて嬉しい限りです!今後もぼちぼち頑張りますので、是非ともよろしくお願いします! (6月27日 19時) (レス) id: 5f256feba8 (このIDを非表示/違反報告)
アーミー好き - これとても好きです‼︎自分の好きなキャラだし自分の好きな展開というか...とにかく好きですありがとうございます‼︎ (6月27日 17時) (レス) @page35 id: 3264f1cacf (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:あすあま | 作成日時:2023年4月28日 4時

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