抵抗 ページ32
…左腕から、妙な音がした。
身体の内側を巡り巡って響き渡る…肉と、皮膚とがずれゆく耳障りな音。
「できちゃった」
腕に、目をやる。
彼女の両手が添えられた左肘は、明後日の方向を向いていた。
「ッ!!!」
それを視認した瞬間、激痛が走る。
殴られてできた腫れよりも、蹴られてできたアザよりも、肉そのものを引きちぎるような激しい痛みは、吾輩の全てを支配した。
「いっ…あ…ぁあ…がぁッ…ぁぁぁぁあ!!!」
奴の拘束から逃れようと必死にもがく。
どうしようもないこの痛みからも…
もう片方は簡単に押さえられてしまった。
足はどれだけ動かそうとしても無駄だった。
「右もやっちゃう?」
そっと奴の手に挟まれた右腕。
指先にかけて震えが止まらない。
「…あ、ぁあああ…っ…やめ、やめろ…」
「やめろ?」
あ…
ギリっと力が込められる。
吾輩に拒否権はなかった。
「や…めてください…ぃ…あ、あぁ…ッおねがい…します…」
「かわいいなぁ」
力が強まる。
「はぁ…っ、ごめ…なさい!…ごめんなさい…!!」
何故、こんな奴に、謝罪の言葉を述べているのか。
何故、仲間を傷つけた奴に、許しを求めているのか。
情けない…
こんなに、奴が憎いのに…
我が身を優先して、しまうなど…
…いや、もう屈しないと決めたではないか。
「あっ」
ぬめりと身体をしならせ、イカ状態になる。
馬乗りになっていた彼女は、がくりと地面に座り込むようにして体勢を崩した。
次にヒト型になったとき、吾輩はその身体を蹴り飛ばしていた。
倒れ込む。
しかし、すぐさま起き上がる。
そんな彼女に、渾身の体当たりをした。
身体を押し出したわずかな瞬間に、
「強いじゃん」
と、耳元で囁かれた気がした。
彼女のメットが大きな音を立てて床に当たる。
そして、そのまま仰向けになった。
「はぁ…はぁぁ…ッ」
乱れた呼吸。
左腕には尚激痛が走っていた。
…経過。
1秒…
彼女が起き上がる気配はない。
2秒…
動きを止める為、どうすべきか考えた。
3秒…
拘束しようにも片手では難しいことに気づく。
4秒…
アロハのゲソを切り刻んだナイフが目に入る。
…殺してやりたいほど憎い。
逃がしてしまえばきっと同じことを繰り返す。
だが…
5秒…
一歩、踏み出した。
6秒…
少し立ち止まる。
7秒…
何か、おかしい。
8秒…
がくりと膝をつく。
9秒…
…地面が、近い。
10秒。
吾輩は意識を手放した。
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しゃぼん🫧 コロイカダイスキ - ニヤニヤ…。 (3月5日 18時) (レス) @page33 id: 4cc781ec23 (このIDを非表示/違反報告)
あすあま(プロフ) - mariaさん» ふふ…毎度何かと世話焼きな彼、素敵ですよね!亀ペースですが、彼らの行く末を気長にお待ちくだされば幸いです。 (8月5日 23時) (レス) id: 5f256feba8 (このIDを非表示/違反報告)
maria - マスクくんの反応が気になるのでマスクくんお願いします! (8月4日 18時) (レス) @page35 id: 4c43ea808a (このIDを非表示/違反報告)
あすあま(プロフ) - アーミー好きさん» こちらこそキャラの魅力を感じてもらえて嬉しい限りです!今後もぼちぼち頑張りますので、是非ともよろしくお願いします! (6月27日 19時) (レス) id: 5f256feba8 (このIDを非表示/違反報告)
アーミー好き - これとても好きです‼︎自分の好きなキャラだし自分の好きな展開というか...とにかく好きですありがとうございます‼︎ (6月27日 17時) (レス) @page35 id: 3264f1cacf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あすあま | 作成日時:2023年4月28日 4時