勝負 ページ30
ヒュッと奴の声が裏返った。
一瞬の、沈黙。
「私、その顔が…見たかったの」
奴は歓喜した。
「最近のアーミーくん、ずいぶん角が丸くなっちゃってさぁ！」
その声は、耳を劈く雑音でしかない。
「黙れ」
憎悪、屈辱、悲嘆。
「不快だ。貴様の全てが…」
顔に、幾つもの血管が浮き出た。
腫れた瞼など構わずに、目を開ける。
「ああ…もっと早く、その顔が見たかった！」
虫唾が走る。
「そうしたらエフテンちゃんを虐めないで済んだのに！」
心の奥で、何かが千切れた。
「…戯言をほざくなッ！」
今の吾輩を突き動かしているのは、怒りだけだった。
だが少し…喋りすぎてしまったか。
息が上がる。
身体が小刻みに震え、溢れ出る感情と言葉に遅れをとる。
「貴様は…こんな愚劣な行為でないと……欲を満たせないんだな…？我々を…弄び…傷つけ…」
ギリっと手錠が軋んだ。
「…何から何まで想定外だ…貴様の存在自体…ッ……」
咽せる…舌が回らなくなる…
「私ね、アーミーくんには一方的な虐めは合わないなって思ってた。ただ、安全面を考えたら…ね」
「………あ？」
「だけど私、今ならこの一歩を踏み出せそう」
言葉通り一歩前に進み、奴は吾輩の目の前に立った。
そして、ぐっと顔を近づけた。
何度も吾輩を殴りつけた手が、伸びる。
しかし、それは吾輩の上へと向かい…
「…ッ…」
手錠を外した。
だらんと腕が床に落ちる。
ゆっくり血が流れ込み、少しずつ元の感覚を取り戻した。
痺れており、力はまるで入らない。
「何の…真似だ…？」
全く同じ要領で他の拘束も解かれる。
相当強く締め付けられていたのか、くっきりと痕が残っていた。
「アーミーくん、勝負しよっか」
…今、動かなければ一生後悔する。
気づいた時には吾輩は奴に飛びかかっていた。
獣のように喰らいつく、理性を無くした本来の姿。
重い身体を支える脚力はなく、奴を押し倒すようにして抑え込んだ。
力足らずの腕で、目の前の悪魔を、締めつける。
感情を表に曝け出し、今まで堪えていたものが溢れ出た。
「よくも、エフテンを…アロハを…ッ！！貴様はァ！…一体！何がしたい…！？答えろ！！」
肩が上がり、激しく呼吸を乱す。
「我々が…どんな思いでここまで上り詰めたか！分かるか！？それを…簡単に…壊しやがって！！！」
満足そうに奴は答えた。
「そう来ないとね」
そして、けらけらと笑いながら頭突きを繰り出し、するりと腕から抜け出した。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 19人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
しゃぼん🫧 ｺﾛｲｶﾀﾞｲｽｷ - ニヤニヤ…。 (3月5日 18時) (
レス) @page33 id: 4cc781ec23 (このIDを非表示/違反報告)
あすあま(プロフ) - mariaさん» ふふ…毎度何かと世話焼きな彼、素敵ですよね！亀ペースですが、彼らの行く末を気長にお待ちくだされば幸いです。 (8月5日 23時) (レス) id: 5f256feba8 (このIDを非表示/違反報告)
maria - マスクくんの反応が気になるのでマスクくんお願いします! (8月4日 18時) (レス) @page35 id: 4c43ea808a (このIDを非表示/違反報告)
あすあま(プロフ) - アーミー好きさん» こちらこそキャラの魅力を感じてもらえて嬉しい限りです！今後もぼちぼち頑張りますので、是非ともよろしくお願いします！ (6月27日 19時) (レス) id: 5f256feba8 (このIDを非表示/違反報告)
アーミー好き - これとても好きです‼︎自分の好きなキャラだし自分の好きな展開というか...とにかく好きですありがとうございます‼︎ (6月27日 17時) (レス) @page35 id: 3264f1cacf (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：あすあま | 作成日時：2023年4月28日 4時
