検索窓
今日:14 hit、昨日:2 hit、合計:122,966 hit

四十話 ページ40


病院から、どうやって来たのだろう、松葉杖をついた、痛々しい足。



「なんで、ゆづくん」



おぼつかない足取りでこっちに向かってこようとするから駆け寄ってそれを止める。




「よかった、まにあって。病院行きになったあと、なんでAがこっちのリンクにいたんだろうって不思議に思って」



Aのコーチに聞いたんだ。なんて言ってわたしのおでこを弾いた。




「いった!!なにするの赤くなっちゃうじゃない!」




おでこをさすりながら言った。見に来てくれたお礼も素直に言えないだなんて、なんて性格の悪い女だろう。





目の縁にたまった泣いたはずの涙はびっくりした拍子に奥に引っ込んだ。




「リンクの上では僕のことだけ考えて。僕のぶんまで滑ってくれるんでしょ??」




「うっ…」

あの時は、気持ちが熱くなってて。だけど今はきちんと完璧に踊れる自信なんてない。






「いいんだよ。結果とか優劣とかなんて気にしなくていい。素直に自分の思いを乗せて滑ればいい」


「とか言いつつ今さっき自分のこと考えろって言ったじゃん!半強制的だったじゃん!!」









「だって、いつだってそうだったでしょ??」



え。一瞬にして顔が火照る。全身が燃えるように熱い。彼のいたずらっ子のような笑顔が視線の端で見えた。







バレている、多分彼には全て。わたしのゆづくんへの想い。



なんで、いつから、頭がぐるぐるして彼の顔を見れないでいると、ふと、首元に何かつけられる。






「これ…いつも…」


「そう。いつも、僕がつけてたチョーカー」



今日は、これを僕の代わりに表彰台へ連れてって。









彼の首はわたしより一回り大きい。ちょっと不恰好だけど、わたしにはお似合いだ。破れたスカートと、ブカブカのチョーカー。そしてそれを身にまとうわたし。




うん。そううなづいて、スピーカーの選手紹介に合わせてリンクに上がる。なんだか最高に気分が高揚している自分を感じる。いまなら、ジャンプ何回でも飛べそう。








もう怖いものなんてない。この会場には、観客も、スタッフもいない。わたしと、ゆづくん、そしてまるでついさっき整氷したばかりのように白くつやつやと光る氷だけ。それだけしか今ここにはない。それだけで、わたしは構わない。

四十一話→←三十九話



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (98 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
298人がお気に入り
設定タグ:羽生結弦 , スケート , 恋愛
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

ゆうちょ(プロフ) - マイさん» マイさんありがとうございます。単なるわたしの妄想ですが、楽しんでくださるとわたしも嬉しいです。ありがとうございます!! (2018年3月1日 23時) (レス) id: edceaa7f0e (このIDを非表示/違反報告)
マイ - 続きがきになって仕方ないです!!大好きです!更新楽しみにしてます(^^) (2018年3月1日 11時) (レス) id: 1b207efc07 (このIDを非表示/違反報告)
ゆうちょ(プロフ) - 莉樹さん» ご指摘ありがとうございます。訂正させていただきます。ありがとうございます! (2018年2月26日 21時) (レス) id: edceaa7f0e (このIDを非表示/違反報告)
莉樹(プロフ) - 結弦のお名前をひらがな表記の場合には、つに濁点の方だと思います!次の更新を楽しみにしています。 (2018年2月26日 21時) (レス) id: e903c9ed29 (このIDを非表示/違反報告)
ゆうちょ(プロフ) - 美紀さん» コメントありがとうございます。拙い文章ではありますが、羽生選手の素晴らしさを精一杯文章にしていきます、頑張ります! (2018年2月26日 20時) (レス) id: edceaa7f0e (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:ゆうちょ | 作成日時:2018年2月26日 0時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。