あなただけに。

十四話 ページ14

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中学校2年の時。仙台のアイスショーを翌日に控えていた私は夜、帰りが遅くなってしまった。


まあでも、スケート教室から家まではほんの歩いて十分。







やっぱりゆづくんがいない帰り道はつまらない。早く宮城にかえってこないかなあ、と呑気に考えながら階段をくだるときのことだった。




突然誰かに背中を押された。




なんの心の準備もしていなかったわたしは抵抗もできずに、体が転がるままに階段の下まで、落ちた。



「僕だけのAちゃんでいてよ。もう周りの人に演技をみせないで。」



狂ってる。首を動かすこともできなくて顔は見れなかったけど、この声はいつも一番の声で応援してくれていたはずのあの男。




歓声、うれしかったのになあ、と思いながら霞む視界が真っ暗になった。



その現場は近所の人に目撃され、男は現行犯で殺人未遂として逮捕された。





アキレス腱、損傷。スケートシューズを3ヶ月履けない日々は辛かった。



悔しくて悔しくて、あの男に負けずにがんばって、世界選手権で入賞してオリンピックの舞台にたつんだ。そんな気持ちだけで長い治療期間をのりきった。



待ちに待った、3ヶ月ぶりにリンクの上に立つ日。あんなに楽しみにしていたはずなのに、バランスが取れなくて。歩くよりも簡単だったはずのスケートができなくなった。




周囲の人は怪我で調子が戻らないだけだ、と慰めてくれたけれど、わたしにはわかっていた。もう二度と以前のようには滑れない。







そのあとすぐに、人生の全てだったスケートを辞めた。

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