飽きさせないでよ【シルバー】 (ページ8)

今日:2 hit、昨日:9 hit、合計:15,593 hit

ハッピーバースデー！ページ8

・

ディアソムニア寮の鏡の前で、暫く立ち尽くしていた。というのも、あまりの態度の豹変と言いますか、なんと言うか……

横目で右隣に立つ彼を見上げた。彼とは身長差がえげつないので横目だけで見るには眼球が痛むのだが。

『何の心境の変化ですか……』

「……」

『あぁっ！待ってください帰らないでぇ！』

あの後、レオナさんが贈り物を返してくださることは無く、私の腕を引っ張り、目的地もわからず無言で連れていかれた。着いたのは寮への扉。それも、レオナさんが立ち止まったのはディアソムニア寮の鏡だった。これには驚きが隠せず、つい失礼な口をきいてしまった。

私が必死に謝ると、冗談だと言ってまた揶揄われた。そして私の腰に手を回した。王族様様だ。アイラブレディーファースト文化()

『エスコートってやつですね？久し振りにされました。』

「……どっちだ。」

『誰だ、とかじゃなくてもう絞られてるんですね()』

シルバーですよ。と言うと、だろうなと返された。じゃあ聞かなくても良かったじゃないか。あんなこと思い出したくもない。しかし嫌な記憶程脳に鮮明に焼き付いているものだ。

茨の谷でのダンスパーティーで(親父殿に言われて)(ほぼ強制で)一緒に踊った程度だが。ダンスの途中眠りかけたアイツを会場のど真ん中で引っ叩いた記憶は、今でもしっかり覚えている。

思い出に浸っていると、レオナさんに顔色が悪いと指摘された。そりゃそうだ。あれは私の人生史に残る赤っ恥なのだから。同級生の注目を浴びて散々だった。

いつの間にか寮の門前まで着いてしまった。私が震えながらポケットから吸入器を出すと、レオナさんにそれも取られてしまった。無事に帰ってこれたら返してやるよと言われ渋々了承したが、それが無いと無事じゃないんだな。畜生。

一歩一歩、ゆっくりとディアソムニア寮に近づいているはずなのに、それがあっという間に感じてしまう。

『……前にここで貴方に会った時は、まさかこんな風に隣を歩いているとは思いませんでした。』

会話で気持ちを誤魔化さないとやってられない。レオナさんの方を向いてそう笑ってみせた。

「……前にここで会った時は、酷く可愛げのない女だと思ったが……こんな弱みを見せるとは思わなかったな。」

心なしか彼がいつもより優しく笑った気がした。気のせいだったら嫌なので彼から目を逸らした。