ハッピーバースデー! ページ4
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暫くしてふと思った。自分は一体どこへ連れていかれているのか。
そんなこと訊くまでもないが、まるで当たり前のことかの様に寮まで手を引かれるので、驚く暇もなかった。
『……どこ行ってんの。』
最早語尾が疑問系にすらならない。すると彼は当たり前かの様に言った。
「ディアソムニア寮だ。」
『何故。』
簡素すぎる会話で申し訳ないが、彼の言葉足らずのせいだ。許せ。彼のことだから寒いから休憩して行けなんてことは言わない。ということは……
彼の顔を凝視していると、彼は得意げに言った。
「Aも親父殿を祝いに来たのだろう。もうパーティーは終わっているが……」
彼がそう言いかけたところで、私は歩みを止めた。
『………帰る。』
「!?」
彼は驚いて言葉を失っている。一方こちらは今すぐにでも駆け出したい。
いやこっちが吃驚だわ。何当たり前みたいに誘拐してくれちゃってんの。
『親父殿を祝いに来たわけじゃないから……!』
「じゃあこれは何なんだ?」
『それは……あたしのじゃないから!』
自分でも何言ってんだって思う。かなり支離滅裂なことを言っているのはわかる。でもシルバーくらいなら騙せるかなって!!!(無茶)
嘘は言っていない。そのプレゼントは私のじゃなく、親父殿の物だし。祝いに来たのではなく、プレゼントを渡しに来ただけだ。屁理屈かもしれないが、嘘は言っていない。
「仮にそうじゃないとしても、親父殿の生まれた日くらい一緒に祝うべきだと思うぞ。」
話が通じない癖に決まって正論を言う。逃げようとする私の腕を離さない。いつもだったらどうにかして逃げるが、寒さと疲労にやられたこの体では、男子高校生から逃げれるわけがない。ましてやシルバーだ。私なんかを逃がすほど生半可に鍛えていない。そんなこと私が一番わかってる。
どうにか城門前で止まることが出来たが、気付かないで居たらどうなってしまっていたのだろうか。凍える体に鞭打ち、必死にシルバーに抵抗する。
『あたし、そんなに時間が無いから!アジーム家にも戻らなきゃいけないし……!』
私がそう言った途端、彼の手の力が弱まった気がした。可笑しいと思い、そろそろと彼の顔を見上げると、私は息をヒュッと呑んだ。
―――――どうしてお前が悲しそうにするんだ。
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作者名:天 | 作者ホームページ:https://peing.net/ja/_sora_fleur?p=auto&utm_source=twitter&utm_medium=ti...
作成日時:2020年10月2日 21時