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ハッピーバースデー! ページ21



『これ、あの子に渡しといてくれない?』


お願いだから首を縦に振ってほしい。ぶっきらぼうにプレゼントの紙袋を片手で差し出す。俯いて彼の表情が見えない分、不安ではあった。案の定彼は首を横に振った。そのかわり、紙袋を掴んだままの私の手を引いた。


「お前に直接祝われた方がアイツも喜ぶ。」

『アンタにはわかんないわよ……』


あたしの気持ちなんて。そう言ってどこまでも顔を逸らす私に彼はとうとう痺れを切らし、無理矢理顎を持ち上げられた。これが世に言う顎クイというやつだろうか。そんな可愛いものではないが。


「わかってないのはお前の方だ。」


彼の真っ直ぐな視線に捕らえられ目を逸らすも、「こっちを見ろ」と叱られてしまう。渋々睨むように見上げると、彼はフッと笑った。


『何が可笑しいのよ。』

「いや、可愛いと思ってな。」

『はあ?』


何言ってんだコイツという意味を込めた目で彼を睨んだ。彼の言う可愛いは、小動物に抱くそれだ。差し詰め、頰を寄せて不機嫌そうな顔の私がフグにでも見えたのだろう。しかし、時々慈しむような表情を見せる辺り、彼は私を嫌ってないんじゃないかという錯覚に陥る。そんな自分が惨めだった。


『ごめん、これから寮長の手伝いに行かなきゃいけないから……』


彼の手を振り解き、真っ直ぐ目を見て言った。なんでコイツに懇願しなきゃならないんだ。そう考えたら負けだ。セベクへのプレゼントを押し付けるように渡して、『ごめん』と一言だけ言った。
寮長の手伝いなんて、後付けでしかない。居た堪れない気持ちで咄嗟に立ち去ってしまおうとした。だか、向こうは男。力負けしてしまうのも時間の問題で。振り払った手をもう一度掴まれた。

もうやめてくれ。これ以上惨めな思いはしたくないんだ。叫び散らして逃げ出したい衝動を抑え、立ち止まった。彼は場違いにも落ち着き払った声で、普段通り訊いてきた。


「何が怖いんだ。」

『……はあ?』

「何にそんなに怯えているのか訊いてる。」


怯えてなんかない。そっちが勝手に怯えてるんじゃないか。
勝手に謙遜して、敬遠して、いつの間にか笑い者にされるんだ。ここまで来れば酷い被害妄想かも知れない。しかし、想像が容易で起こりうるから恐れているんだ。怯えと恐れは全くの別物である。


『……それを訊いて、どうすんの。』


助けてもくれない癖に。なんて、上から目線。私が言っちゃダメなんだろうけど。
辺りの空気が冷たくなる頃、彼は口を開いた。

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作者名: | 作者ホームページ:https://peing.net/ja/_sora_fleur?p=auto&utm_source=twitter&utm_medium=ti...  
作成日時:2020年10月2日 21時

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