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ハッピーバースデー! ページ3

Aside



『、シルバー……』



振り向きたくなかった。

幻聴なんかじゃないと、本当はわかっている。だけど振り返ってしまえば、この都合のいい幻が消えてしまう気がして。それでも考える間も与えず気持ちと体が先走り、振り返ってしまった。

幻聴なんかじゃない。幻覚だ。突然現れた彼に息詰まり、これ以上の言葉を発することが出来なかった。


「親父殿が寮の窓から雪道に寝転がる変質者を見つけてな。俺に見て来るよう頼まれた。」


親父殿の視力の良さを忘れていた自分の愚かさと、そんな姿を見られていたのかという恥ずかしさで死にたくなった。


「この吹雪の中雪道に寝転ぶのはどこの誰かと思えば……まさかお前がそんなことをするとはな。」


傘を差してコートを着ている彼の重装備に羨ましいと思いつつも、何と声をかければいいのか今更分からなくなった。すると彼はその上着を脱ぎだした。驚いて目を丸くするも、彼は何食わぬ顔で「ほら、」とそれを渡してきた。


『………なにしてんの?』

「そんな恰好で寒いだろう。」


俺たちの中で一番寒がりなのはお前だったろう。と言って、コートを着るように促す。しかしそれすら気に食わず、要らないわよ。とそれを拒む。絶対に目を合わすまいと、ずっと目を逸らし続ける。


『お前が風邪を引いてしまう。』

「そんな育てられ方をしていないのはお前が一番知っているだろう。」

『だったら、あたしだってそうじゃない。』

「お前は長時間ここにいただろう。」

『そんな長時間はいないわよ……』


呆れて彼を睨みつけると、やっと目が合ったな。と彼は笑った。その笑顔に絆されないように、更にキッと睨みつけるが、彼にそんなもの効かないのだ。

すると彼は有無を言わさず私の手を引いた。突然のことで抵抗も出来ず、ただ彼の胸に収まるだけだった。しかし、冬の風に吹かれ続けた私の体は、これ以上の刺激を与えられることを嫌がり、彼に抵抗することをやめた。

思考回路が思考を放棄した。普段の自分なら有り得ない行為だ。降参と言わんばかりに「あ゛〜…」と声を出すと、ルチウスの声真似か?と意味の分からない回答をしてきた。


『……寒い。』

「だろうな。」


コートを私の肩にかけながら目を細めて笑う彼を見て、もう少しだけこの時が続いて欲しいなんて思った。これも寒さのせいだ。

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作者名: | 作者ホームページ:https://peing.net/ja/_sora_fleur?p=auto&utm_source=twitter&utm_medium=ti...  
作成日時:2020年10月2日 21時

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