飽きさせないでよ【シルバー】 (ページ18)

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ハッピーバースデー！ページ18

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人の為に決まってるじゃない。

そんなこと、今の私にはとてもじゃないけど言えなかった。言う権利なんてない。自分の為にやってるんだから。
普通に考えたら縁を切った相手にまで誕プレを渡すなんて、どうかしてる。まるで復縁したいと願っているようだ。

グリムの言葉に黙りこくった私を不審に思い、エースは私の顔の前で手を振って「A～？」と呼ぶが、私はそれどころではない為見向きもしなかった。

「僕は、相手の笑顔が見たいからかな。大切な人には笑っていてほしいって思うよね。Aちゃんも同じ気持ちなんじゃないかな。」

「多分ね」そう付け足して微笑む監督生の言葉も、確かにそうなのだ。大切に思っているから。それが一番なのではないか。
大切に思ってるから笑っていてほしい。今まで迷惑をかけたから、感謝の気持ちを伝えたい。その気持ちに偽りはないのだ。

「もういっそのこと渡さなくてもいいんじゃ？」

監督生の言葉に、エースとデュースは「はぁっ！？」と声を荒げた。堪忍袋の緒が切れたトレインに、とうとう名指しで叱られてしまった。ピシャンッと雷のような声で絞られ、エースは「監督生が変なこと言うからだぞ！」と小声で反論する。

勿論、私も驚かなかったわけではない。寧ろ一番驚いている。監督生はたまに棘のある正論を言うことがあるが、まさか自分が言われる日が来るなんて思ってもみなかった。

一方監督生はいつも通り、笑っているのかいないのかわからない表情で黒板を眺める。その膝の上のグリムはいつの間にか寝息を立てている。

「手渡しするに越したことはないと思うんだ。折角大切な人に会える距離にいるんだから。」

その時彼は、確かに笑った。その横顔が、どうしようもなく嬉しそうだった。今にも消えてしまいそうな憂いを見せる彼に、どう声をかけるべきか戸惑った。
彼はこの世界の人間じゃない。彼が本来生きるべき世界に、彼の大切な人が生きていることは、その言葉だけで十分に察せる。

『距離を図るのは苦手なの。』

一から関係を作るのは得意だけど、失ったものをもう一度手に入れられる力は、私にはない。だけど、一つだけ確かなことがある。

『……生憎、渡さないっていう選択肢は用意してないのよ。』

私の目を見て監督生は優しく微笑んだ。「大切」って思いは、どんな形であろうと、本人の優しさの象徴だ。自分の中の唯一とも言えるそれを無くすなんてこと、私には出来ない。