ハッピーバースデー! ページ2
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そもそも
寮への鏡へ行くのにも一苦労で、急に変わった気温に体が追い付かないで何度も転びかけた。寮の鏡に入って雪道になった時なんて、気を失いそうになった。ただでさえ茨道で危険なのに、雪が敷き詰められるなんてとんでもない。天気は一年中悪いから辺りは真っ暗。どうしてこんな目に遭わなければいけないのか。
雪に打たれて冷静になった途端、感傷に浸ることすらも阿呆らしかった。ムクムクと起き上がって、自身の体に積もった雪を払う。こんな所でこうしてても意味はない。帰ろう。
来た道も雪が積もって分からなくなっているが、途方に暮れている暇があったら仕事の一つでも終わらせろ。
相変わらず自身に対して厳しい彼女は、まるでなかったことの様に涙を拭かず、吹く風に任せていた。通知音と共にスマホに表示された【兄さん】という文字に、申し訳ないとは思いつつも、電源を切った。その内アズールからも鬼の様にかかってくるだろうと思ってのことだ。
ふと、周囲を見渡した。
『………無い。』
親父殿へのプレゼントが無いのだ。取り乱して辺りを再度確認するも、それらしきものどころか、鈍色の空と真っ白な世界が広がるだけだった。スマホを落とした時とは打って変わって、慌てふためいてしまった。自分の優先順位がわかりやすくて、穴があったら入りたいとまで思う。
自分のことなんかよりずっと大事なものが、自分以外の誰かであることが、恥ずかしくて悔しかった。あれだけ嫌いになりたいと願ったのに。遣る瀬無い気持ちを噛み殺し、吠え面をかいて探す。
『……最悪……………』
ここまで寒いと、もう駄目になっているかもしれない。無駄になるとはわかっていても、放っておくのは嫌だ。
神様はいつも自分に味方をしてくれない。
兄さんみたいに綺麗な心じゃないと報われないというのか。彼でさえ報われなかったのに。どうしてこんな目に遭わなければいけないのか。指先が凍ったように青くなっていた。
ぴゅうぴゅう吹いていた風が和らぎ、ピタリと雪が止んだ。呆気に取られていると、後ろから懐かしい声が聞こえた。不愛想で無関心な、落ち着いた声が。
「……お前が探している物はこれか?」
都合のいい幻聴が聞こえるくらいには、頭もやられているらしい。
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作者名:天 | 作者ホームページ:https://peing.net/ja/_sora_fleur?p=auto&utm_source=twitter&utm_medium=ti...
作成日時:2020年10月2日 21時