10年先まで (ページ2)

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「余命は人によってそれぞれです。天宮さんの状態からしてすぐにどうとなることはまずありません。けれどこの病気はいつ、何があるか分からないです」

急な入院から１ヶ月、病棟にある小さな部屋でそう告げられた

兄貴の顔が蒼白になり、ハンカチで顔を覆う

医者は気まづそうにカルテに目を落とす

当の本人、俺だけが笑った

『知ってるよ。余命は10年。それ以上生きられた人は居ないんでしょ。』

俺はそう言って院内のインターネットで調べた資料をみせる

個室の雰囲気はさらに悪くなる

そして俺はさらに笑ってみせた

入院に合わせて買ったパジャマは新品同様で、それを着ている俺の肌も同じように若々しく、とても病人とはおもえなかった

『別にいいよ。おじさんになるのなんてやだし
ちょうどいいじゃん。俺は大丈夫。あと10年で十分だよ。人生なんて。』

20歳の俺には怖いものはなかった。

その時の言葉に嘘はなかったし、若くして死に至る自分に恍惚としたものを覚えていた

病名を他人に告げても無意味だと知った。
普通に生きている人間は病気の名前などほとんど知らない。

医者になるか患者になるかしかない限り、
生涯目にすることは無い。
臓器名と症状で組み合わされた漢字8文字程度の文字

国の医療機関が特異で稀な病だとお墨付きまで与えている

普通に生きていたら遭遇しないはずの、友人1人も知らない稀な病なのに、唯一の家族、兄はその病名を知っていた

母が同じ病気でな亡くなっていた

小さかった俺はなぜ死んだのか理解出来ずに居たが、兄貴だけは病名と症状、そして母さんの最後をみとどけていた

だから、母さんがどんな風に死んで行ったのかを目にしている兄貴は段々と青ざめて最後には真っ白になった

絶望と放心と脱力に襲われ魂が停止してしまったかのように見えた

医師は、遺伝性の症例もあると心苦しそうに言った

病室に戻りパソコンを使ってこの病気について調べた

そして絶望した。

宝くじに当たるよりこの病気が発症する確率の方が低かったからだ。

町内会の福引さえ当たったことの無い自分がどうしてこれに当選したのだろうか

親族に遺伝することもあるというけれど、年齢の近い親族なんて沢山いるのになんで俺だけに遺伝したのだろうか

そんなデータの前で俺は動けないでいた