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1章〜カンナと夏のはじまり〜 ページ2

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段差の低いホームに足を踏み入れる。珍しく先客が居た。澄んだ青空に映える真っ赤な花束を抱えた、三つ編みの女。今にも廃墟と化しそうな駅には不似合いな、若い女だ。

殆ど塗装のはげた駅。何年も前に無人化されたこの駅の整備は、最悪と言っていい程行き届いていなかった。電車の到着時刻まで、時間はあるというのに、女は白線の前に立っている。直射日光が透き通る肌をより一層白く見せた。夏らしい生ぬるい風が肌にこべり付いて気持ち悪い。汗が至る所から吹き出した。よくもあの暑さに耐えれるもんだ。

女のことが気になった。いや、花のことが気になったのかもしれない。いつからか、紅い花を見る度、胸が痛む。何故紅い花なのか、何故こんなにも胸を締め付けるのか。俺には分からなかった。

そんなことを気にしているうちに自分の身が持たないことは確信した。コンクリートの床に初夏の光がまぶしいほど照りかえる。
俺は、近くのベンチに避難した。ギシギシと腐敗しかけた木製ベンチから、痛々しい音が聞こえる。小さな動作ひとつでそれは、音を立てた。そんなことお構い無しに体を伸ばす。目の前に青空が広がる……はずだった。澄み渡る青空を背景に紅い何かが目の前を横切った。花弁だ。2、3枚、生ぬるい風と共に踊っている。下から突き上げられるように心臓の鼓動が大きく鳴った。こんなにも胸がざわめくのは初めてだった。

ゆっくりと美しく舞う花弁の先にすらりとした姿。俺の視界は少女を捉えた。少し乱れた三つ編みが風に揺らしながら、彼女もこちらを視界に捉えた。透き通るような肌。光を帯びた細い睫毛の奥から覗く鮮やかな瞳。純粋に、綺麗だと思った。目を逸らせなかった。見とれていたと言われれば否定出来ない。彼女の瞳に吸い寄せられるようにいや、本能的に目を逸らしてはダメだと諭した。

俺の瞳に彼女が映り、彼女の瞳には俺が映る。しばらく俺らは見つめ合っていた。ほんの十数秒の間。羞恥心なんて今の俺にはなかった。

静かだった町に線路の軋む音が響く。だんだんとこちらへ進んでく。黒板を引っ掻くようなブレーキの音が耳を突いた。直後、アナウンスと共にドアがゆっくりと開いた。

『彼岸町。彼岸町ー』

ゆったりとした、ダミ声気味の鼻声がホームに広がる。
先に折れたのは彼女の方だった。
真っ赤な花と三つ編みは、四角い箱に吸い込まれていく。

「あ……」

微かに、ほんの少し、少女の口元が緩んだ気がした。こちらを1度も振り返ることはなかった。体中の血が頭に昇る。きっと真っ赤な顔をした俺は、しばらくホームに立ち竦むしかなかった。

*→←0章〜遠くにはいつも君がいた〜


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作品ジャンル:純文学, オリジナル作品
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助@でんこみたに(プロフ) - 赤菊 藍さん» ありがとうございます!頑張ります! (11月16日 16時) (レス) id: e967de5434 (このIDを非表示/違反報告)
赤菊 藍(プロフ) - このような作品はとても私好みでワクワクします!これからも頑張って下さいね。 (11月15日 15時) (レス) id: 729a63d6a3 (このIDを非表示/違反報告)
レンスイ(プロフ) - こちらの作品感想書かせていただきました! ご把握よろしくお願いします! (11月8日 11時) (レス) id: a25c9bfc08 (このIDを非表示/違反報告)
レンスイ(プロフ) - 情景描写が多く、厚みのある印象を受けました!駅の描写も細かく、語彙力があって圧倒されます! (11月8日 10時) (レス) id: a25c9bfc08 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - Noraさん» ありがとうございます。中学のクラスメイトがこんなでした。がんばります。 (9月20日 20時) (レス) id: 82ea27b76b (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作者ホームページ:http:  
作成日時:2018年9月15日 21時

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