【僕のヒーローアカデミア】命懸け少年 Part4 (ページ5)

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地獄に落ちた少年へページ5

かつて仏の道を進んだ者として、齢15と言えど未だ未発達の身体を有するただの純粋な少年に天蓋はこの世の不条理に悔やんだ。『殺して』の言葉。あまりに残酷な懇願だ。この世が、他の人間がそうさせるのだ。惨い。そして哀れだ。

件の少年は儚くも存在していた。自分等の第二の主として。友として。そこに、絆はあったはずだ。

死合廻輪については記録に残された断片的な情報しか知り得てない。されどその中のみでも少年の半生は惨たらしいものだと評価できる。常人ならとうに狂うほど。

そんな彼が｢殺せ｣と言った。
殺される事ができないのを知りながら。

涙を流しながら、言ったのだ。

天｢…無益な殺生は道に反する。我にはできない。｣

乱｢俺が人を殺すのはリングの上だけだ。お前、俺と死合(しあい)はしちゃくれねぇだろ？｣

貴｢…左様ですか。｣

さめざめと泣いた。拭う事は不可能なのに。我々は、それを見ていることしかできなんだ。

天｢逃げたかったのか｣

先刻と同じ問に意味があるかは不明。しかし聞いておきたかった。

虚ろな目は美しいままだった。いや、そう(･･)であるからこそ感ずるのか。

流れるような睫に隠されつつも動きを見せた。そして、此方を見た。

貴｢…逃がしたかったのです。あの子を。｣

その言葉に震えた。嗚呼、嗚呼、どこまでもこの子は…

オーバーホール様は我に手を差し伸ばしてくれた御方だ。残酷であるが、無慈悲では無い。そう思っていた。しかし。

何処かで気づいていた。あの方は行き場の無い者にのみ手を差し伸べる。捨てても構わないからだ。

この少年には行き場があった。その上、それ等から求められていた。

縛り付けたのはオーバーホール様だ。

だがこの檻の中、唯一の光(壊理)を見つけた。
それが今こうして奪われてしまった。

彼の中での神の形は如何様なものと成り果てたか。いくら罵倒しても黙認しようと思った。そのくらいの事をさせてやらねば少年は何処にも避難の声を浴びせられるまい。少年は、生ける人を責めることができないのだ。自分がいくら傷付いても悪人に赦しの言葉をかけてしまうのだ。

オーバーホール様はそんな少年の心すら利用する。少年がいくら訴えかけても、仮に靡いたフリはするだろうが根本は変わらない。変える術を知らぬから。

我々は、救いようの無い地獄を見ている。見ているだけだ。

かの蜘蛛の糸なぞ持ち合わせてはいなかったから。

全ては、主の赴くままに動く。