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「恐らく、容彩祭の準備で八重堂にいらっしゃることと思います。まだ神社には帰ってきておられません」
「そうですか。困りましたね……もう、どうしてこんな時に限って……」
こんなに柔らかい方だったでしょうか？ 初めてお会いした時と雰囲気が全く違う将軍様に、僕はどうしたらいいか分からず、とりあえず鍋にかけていた火を消しました。
とりあえず、声をかけた方がいいのかな。
「なにかお困り事ですか？ もしかしたら、力になれるかもしれません。内容を話していただけませんか？」
「おや、いいのですか？ それは助かります。あのですね、先程まで神子に紹介してもらった小説を読んでいたのですが、続きが読みたくなってしまって。ありませんか？」
そう言って、彼女は本を見せてくれました。タイトルは『死亡フラグを回避するため雷電将軍に求婚したら、溺愛されました。』と書いてあります。
……ご本人になんてものを貸し出してるのでしょう、宮司様は。思わずひとつため息をついてしまいました。
「な、なにかいけないことでもあったでしょうか？」
「え？ いえ、なにも……強いて言うなら、宮司様の趣味でしょうか。部屋に次巻があったはずですので、取って参ります」
「……！ はい！ お願いします！」
わかりやすい人だなぁ。困った顔をしたり、おろおろしたり、笑顔になったり。将軍様がこんな方だったなんて正直意外です。
でもどんな人であれ、この方以上に緋桜が似合う存在はいない。
改めて彼女への敬愛を確認してから、僕は部屋に小説を取りに行きました。
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「これが次のお話なのですね……この巻で初めて、主人公の顔が見れると聞いて、いても立ってもいられなくて……。本当にありがとうございます」
流石は将軍様、丁寧に頭を下げてくださいました。僕も彼女に対して失礼があってはなりませんから、同じように深く頭を下げます。
「はい、どういたしまして。またなにか困った事があればお申し付けください。宮司様から、そのように言われています」
「ふふ、ありがとうございます。あなたは小さい頃に神子に拾われた男の子、ですよね？ 覚えています。大きくなりましたね」
「覚えていてくださっていたのですか。光栄です」
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