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岩王帝君……またの名を、岩神モラクス。璃月人は、尊敬の意を込めて『岩王帝君』と称する。
岩王帝君は年に一度、龍の姿で我々にお告げをくださる。しかし今年は、驚くべきことに岩王帝君がお亡くなりになられて……慌ただしかったのをよく覚えている。
「……岩王帝君は、亡くなられたのでは」
「引退しただけだ。これを知っているのは七星の中でもひと握り、口外しないでくれ」
「……は、はい。えっと……その」
「理解が追いつかないだろう。1度休憩を挟むか」
そう言うと、鍾離殿は立ち上がって……何故か勝手に台所に行った。
休憩を挟んだところで理解出来る問題ではない。断言出来る。岩王帝君が目の前にいるなんて奇跡、ありえない……婆さんと知り合いなのは百歩譲って、知らないところで出会ったとかで済ませられる。
「鍾離殿が……岩王帝君……？」
グルグルと思考が絡まり続ける。考えすぎて倒れそうになった所を、誰かに受け止められた。
……いや、この状況で受け止められるのは1人しか居ないのだが。
「大丈夫か、A殿」
「はっ……はい、大丈夫……です……」
「声が小さくなっていて聞き取りづらいな……申し訳ないが、隣に座らせて頂こう」
自分で墓穴を掘った。さすがに緊張する。岩王帝君と至近距離、さすがに耐えられる自信が無い。
彼はさて、と枕詞を置いて、話の続きをし始めた。
「希鴻殿は俺に、自身が亡くなったあとの契約を結んでほしいと申し出た。亡くなった後、岩王帝君にずっと守られ続けてきたことを話してほしい。内容はこれだけだった。
「希鴻殿は、こうも話していた。孫娘がとんでもなく可愛いと、命をかけて守りたいと。でも自分は酒飲みで、そのうちポックリと逝ってしまうから、最後まで守りきれないのが心残りだ。だから俺に君を託した」
あぁ、自然と涙が溢れ出てきた。岩王帝君の隣にいることよりも、婆さんの純粋な愛と、私を思う気持ちがあまりにも嬉しかった。
愛されていた。大好きな半仙から寵愛を受け、岩王帝君に見守られ、大切に育てられてきた。
どうして亡くなった後に言えと頼んだのだろう。そんなの、ずるいじゃないか。
「……あのババア、泣かせることしやがって」
「希鴻殿から聞いている通りだ、口調だけは娘によく似ている」
鍾離殿は、嬉しそうに笑って私を抱きしめた。私はそれにしがみつく。
私の行動に、鍾離殿が妖しく笑ったことを、私は知らない。
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