🐰形勢逆転 ページ2
女スパイである私は主にハニートラップで相手を騙す。身体を使うこともあれば使わないこともある。
ハニトラはとにかくコスパがいいのだ。
ホテルにさえ来てしまえば簡単に相手は裸になるし、荷物を浴室にまで持っていくものはほとんどいない。
今回のターゲットも例に漏れずホテルに連れてきた。名前はイ・ミンホ。美しい容姿をした男だけどターゲットになってしまったものは仕方ない。不幸になってもらおう。きっと絶望に嘆く顔もさぞ美しかろう。
イ・ミンホがシャワーを浴びている間に彼の荷物を探る。今回持ち出すものは機密情報が盛りだくさんらしいUSBだ。ゴソゴソと探るけどなかなか見つからない。
今回のターゲットは用心深いなと呑気に考えているときだった。
｢何してるの｣
ヤバい。そう思った時にはもう遅かった。シャワーを浴びていたはずのイ・ミンホが腰にタオルを巻いて、ろくに水気も切らずびちゃびちゃのまま私の背後に立っていた。
｢こんな悪いことしちゃダメでしょ？"Aちゃん"｣
｢どうして私の本名を……｣
｢俺のターゲットも君だったからね｣
彼のターゲットが私だった。これだけで全てを理解した。私は嵌められたのだ。私に依頼してきたあのハゲ頭も敵だった。たくさんの男の恨みを買いすぎた罰が当たったんだ。
｢Aちゃんが今何考えてるか何となくわかるけど、俺は悪いようにしないから安心しな。それよりもせっかく同じ夜を過ごせるんだ、楽しもうよ｣
この男が何を言っているか理解できない。どうしてこいつは今私をベッドに押し倒しているのか、安心しろとはどういう意味なのか。
｢余計な事考えないで。俺だけを見て。これからはずっと俺しか見ちゃダメだよ｣
熱のある瞳で彼は訴えかけてくる。彼の髪の毛からポタポタと落ちてくる雫が鬱陶しくて目を瞑ると、その隙にキスを落とされる。その唇が耳元に来て囁く。
｢俺の愛を教えてあげる。君ならきっと気に入るよ｣
長い長い夜の始まり。私は彼が喜ぶように反応すればいいだけ。あとは流れに逆らわなければいいだけ。
長い夜が明けて朝日が昇る頃、イ・ミンホは疲れ果てて私の隣で寝ている。私は衣服を整えて荷物を持ち、ホテルを出た。
｢――もしもし、ボス。今回も上手く行きました｣
｢――よくやった。アジトに戻れ｣
私の手には1つのUSBと彼の身分証。今回の任務も滞りなく遂行できた。
もう彼と会うことは二度と無いだろう。
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作者名：むち | 作成日時：2024年2月13日 23時
